ニコチアナ | ナノ
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  発掘作業


朝6時きっかりにリヴァイに叩き起こされた俺は渋々起き上がり、朝食を作った。
メニューは昨晩と同じだったが、文句一つなく食べるリヴァイと共に俺も朝食代わりのコーヒーを飲んだ。
早々に朝食を終えた俺は、食べ終わった食器はそのままにして置いて、とリヴァイに告げるとクローゼットの中身をひっくり返して少しでも小さい服を捜す作業に取り掛かった。
店に買い物に行くのに余りにもサイズの合わない服を着ているリヴァイを見られたら、俺が変質者だと疑われるのではないかという恐れからだ。
まだ社会的には死にたくない。

「‥‥‥これも‥‥これも、駄目だな‥‥」

次々と引き出しを漁っては床に落としていく俺の姿は端からみれば空き巣と言ったところだろう。
全ての引き出しの中身を床に敷き詰めた所で「はぁぁ‥‥」と長い溜息を付いて、捨てられたようなそれらを綺麗に畳んで中へ戻した。

クローゼットの下へふと目を向けると奥の方にひっそりと段ボールが二つ、並んで置かれていた。
はて、こんなものあったかと引っ張り出し、大きい方の段ボールを開けた。
中には中高の学校用品が入っていた。授業で使ったそろばんやリコーダーの下に布地の物を発見し、出してみるとそれは体操服だった。
それを片手に考える。
確かに引き出しの中の服よりはサイズは小さい。だが。これでは犯罪臭が上がるだけだ。だぼだぼの体操服を幼児に着せるとは一体どんなプレイだ。生憎俺に個性的な趣味は無い。

後で箱ごと捨てておこうと段ボールの中へ戻し、今度は小さい方の段ボールに手を伸ばし、止めた。
「弥刀」と書かれているのを見つけたからだ。これは俺の筆跡ではない。
不思議に思いつつ開けてみる。

「つっ、‥‥」

中身を確認したとたん、全身の筋肉が硬直した。

(ああ、そうか。これは‥‥‥)

中には俺が小学生の頃着ていた服などが入っていた。
こんな事をするのは“あの人”しかいない。こんな胸糞悪いものなんか全部棄てたと思っていたのに。

「よくやるよ、ほんとに」

固まっていた身体が動き出し、カタカタと震える両手を睨みつけて零した。

「はぁーあ‥‥‥」

今度会ったら何か言ってやろうと思うが、今まで掘り当ててきた服の中ではリヴァイに一番サイズの近い服を見つけることができたので良しとする。
このサイズなら着ていてもまだ大丈夫だろう。まだ、だが。
中高の用品が入った段ボールを部屋の隅に置いておき、「弥刀段ボール」を持って立ち上がる。
服も見つかって、クローゼットも整理できたので一石二鳥と言ったところだろうか。
しっとりとかいた汗に一つ舌打ちをして、無理矢理理由をこじつけ、自分自身を納得させた。

早くリヴァイの元へ行かなければ。
彼には今外に出る前の事前学習としてネットで検索した子供向け教育ビデオの映像を見せている。あれがそろそろ終わる頃だ。
待たせるなんてしたらもれなく鳩尾パンチがプレゼントされることだろう。

「リヴァイー、服あったー」

がちゃりとリビングの扉を開けるとパソコンの画面に食い入るようにしている小さな背中。
遅い、と振り返り、手渡した服に着替え始めたリヴァイにもう出かけるよ、と声を掛けてパソコンの電源を落とした。

「慌てなくていいから」
「わかって、いる‥‥っ、」

ボタンの多い服に悪戦苦闘中のリヴァイを横目に、ダイニングの上に置かれていた食器を食洗機の中に放り込んで食器洗いは終了。

財布を手に取ると着替え終わっていたリヴァイと玄関に向かい、そこで初めて、そう言えば靴もなかったと気が付いた。

「はだしじゃあるかねぇぞ、おれは」
「だよな‥‥‥」

抱きかかえるしかないか‥‥‥。

「少しは服を隠せる、か‥‥‥?」
「おい、はやくしろ」
「はいはい」

財布をジーパンの後ろポケットに突っ込んで、リヴァイの脇の下へと手を入れて抱える。

服か靴か、どちらから買いに行くべきか。
こんなことを真剣に考える日が来るとは思っていなかった。

「おい、あまり顔をちかづけるな」
「‥‥‥はいはい」

前途多難だ。

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