ニコチアナ | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


  いただきます


風呂に入って幾らか気分が良くなったリヴァイに、これからも頭を洗うようにとの命を受け、これは本格的に面倒臭くなってきたと本日何度目か分からない溜め息を付きながら、俺は久し振りに料理なるものをしていた。
最近ろくに食べていなかったし、昼(と言うよりも夕方)に食べたコンビニ弁当もまだ胃の中に残っているせいで匂いだけで腹が膨れる。というより気持ちが悪い。

因みに、俺の風呂の中での勘は見事に当たり、日頃の変則的な食事事情のせいで冷蔵庫の中はほぼ空だった。
明日食糧を買いに行かなくては、と決意し、そのついでにリヴァイに必要になるであろう生活用品も買えば良いだろうと一人思案する。

結局料理は、奇跡的にあった卵とハムでハムエッグを作り、冷凍庫の奥でひっそりと眠っていた賞味期限ギリギリだった食パンを焼く、という何ともお粗末な夕食が出来上がった。
こんなもの食わせる気か、と嫌みを言われるのを覚悟で椅子によじ登っていたリヴァイを両脇の下に手を入れて抱き上げ、予めクッションで高さを調節した椅子の上へと座らせた。
その時何故か腹に一発、鋭い一撃を食らった。ぐふっ、と声を漏らすと、ふん、と返される。おい、俺が一体何した。

じわじわと熱を持ってくる腹をさすりながら向かい側の席へ着き、いただきます、と手を合わせてインスタントのコーヒーをすする。
座ってから何も言ってこないリヴァイに目をやると、皿に盛られた料理をじっと見つめていた。

「‥‥‥変なものは入れてないよ」

ちろりとこちらを見たリヴァイだったが、ゆっくりとした動作で子供の手には大きいフォークを持ち、卵を口へ運んだ。

「‥‥‥!」

一瞬動きを止めたと思ったらばくばくと勢い良く食べ始めた。
フォークを使いづらそうにしながらも卵をこぼさず食べている姿は何とも器用だと思う。

「卵、好きだったのか」
「‥‥いや、」

初めて食った、と小さく呟いたリヴァイに少しだけ驚く。

「リヴァイの世界?地下街?って不思議だね」
「‥‥‥きたねぇドブみたいなもんだ」

返された言葉にふうん、とコーヒーを再びすすりながら相槌を打つ。
どんな所なんだろう。頭の中には昔観た某海賊アニメに出てきたスラム街が浮かんだ。麦わら帽子の彼は無事に海賊キングになれたのだろうか。

脱線していた思考を目の前のリヴァイに戻し、カップをテーブルに置いた。

「おまえ‥‥‥ミトは食べないのか?」

皿から顔を上げた彼は口の端に卵の欠片を付けており、「これが20歳‥‥」と思いつつ、まあね、と答えた。

「あんまり食べないんだ。お腹すいたかなーって思った時に食べるくらい」
「‥‥‥そうか」
「リヴァイの分はちゃんと作るから、そこは大丈夫」
「ミトも食べろ」
「‥‥‥‥‥」

返事を返さず、口端の卵に気づいていない様子のリヴァイへと手を伸ばす。咄嗟に身構えた彼に付いたままの卵を指で掬って、それをペロリと舌ですくい上げて呑み込んだ。

「今日はこれで食べたということで」
「チッ」

俺の一連の動作を固まったまま見ていたリヴァイは俺が触れた箇所を強く拭った。
潔癖症というやつだろうか。ご苦労なことで。

リヴァイはひとしきり“汚れた箇所”を拭うと気が済んだのか赤い擦れ後のできた頬のまま再び食事に戻った。その様子を見て、これからの暮らしへの不安と(恐らく)潔癖症という新たな面倒臭い要素が追加されたことにより出かけた溜め息をコーヒーで身体の中に流し込んだ。

「あ、」
「どうした、リヴァ‥‥‥」

突然の声に反応しそちらを見てみると、テーブルの上に料理を零した姿が。舌打ちをして零したものを片づけ、テーブルを磨くリヴァイに、サイズの合うフォーク等も買ってやろうとリヴァイ用の生活用品リストに追加する。

「明日は生活用品を買いに行くから」
「りょうかいした」

さくり、とパンにかじり付きながら返事をする小さな大人に、家の外にこんな(この世界の)常識を知らない彼を連れ出すのは果たして大丈夫なのだろうか、とまたも面倒な思考が頭をの中を占めた。

prev / next

[ back to top ]