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レオを助ける

バイト着からいつもの私服へと着替えて、自身に宛がわれたロッカーをパタンと閉じた。首にゴーグルを掛けると、ポケットに家とランブレッタのキーが入っていることを確認して更衣室を後にする。未だ働いている同僚たちに声をかけてから裏口から出た。おつかれ、というように頬に触れてきた相棒のソニックにありがとうと笑む。

「よし、給料も入ったことだしちょっと豪華なものでも食べに行くか!」
「キィッ!」

膨らんだ財布に感じる達成感と高揚に浮き足立つ心で薄暗い路地を歩く。そういえば最近肉を食べていなかったと思い立ったレオは、出来たばかりだがなかなかに良い評判を聞く店に行先を決めた。ここからだと少し距離はあるが、そんな些細な事は今は気にならなかった。

「今夜は肉だぞぉ!ソニック!!」

はしゃぐ一人と一匹の声が狭い路地の中に木霊した。



×××



時計の短針が二回りと少し動いた頃、膨らんだ腹を撫でて一人と一匹が上機嫌ですっかり日が落ちた街を歩いていた。思い付きで訪れた店の予想以上の味に気分を良くしたレオが、給料日の御褒美にまた来ようなどと考えてランブレッタを走らせていた時だった。ふと、“給料日まで我慢”ということで冷蔵庫の中身が空に等しい状態であること思い出したのだ。家の近くまで来てしまっていた為にどうしようかと逡巡するも、そうこうしている間に駐輪場についてしまったので、ランブレッタを停めてさほど遠くではない商店へと向かって歩き出した。個人経営の小さな商店だが、営業時間が長いことと店主の人柄の良さからよくお世話になっているところだった。あそこならまだやっているだろうし、歩いて行ける距離のうちの許容範囲内だ。少し食べ過ぎてしまった体を休めるのにも丁度いいと思ってのことだった。

しかし、これが間違いだったと悔やむのはたった数分後のことだった。

先程まで上気していた体温もすっかり冷えてしまうこの状況に、レオはどうやって逃げ出すかとそれだけを考えていた。
目の前には異界存在。右にも異界存在。左にも異界存在。後ろは冷たい煉瓦造りの壁。
見上げるほどに大きい彼らは馬鹿の一つ覚えのように金を出せ、と繰り返している。普段の金欠の時にカツアゲされるのとは訳が違う。今日の財布の中には妹、ミシェーラへの仕送りも入っている。盗られるわけにはいかなかった。
しかし、抗おうにも異界存在と人類では勝敗は目に見えている。いくら神々の義眼を使おうとも完全に逃げ切れる保証はない。
とうとう我慢の限界にきたのか、目の前の異界存在が怒鳴りながらその巨大な腕を振り上げた。
ああもうだめだ。覚悟を決めて訪れる痛みに耐えるため、首をすくめた。

「‥‥‥‥?」

しかし、いつまでたっても衝撃は来なかった。恐る恐る顔を上げると、レオの両サイドに立っていた異界存在も訝しげに仲間を見ている。

その時、止まっていた時間が動き出した。

夥しい量の血を噴き出しながら倒れていく首から上が消え去った体と、本来ならばそこにあったはずの頭部が地面に落ちた。突然のことに狼狽える残された二人に気付かれないように義眼で辺りを見回せばソレはすぐそばにいた。

「にゃっはー」

しんじゃった。
無邪気な笑みを湛えて舞い降りたのは、最近知り合ったばかりのシキだった。
金と赤の瞳を弓なりに反らして笑うシキに、ぞくりと嫌な汗が頬を伝う。
髪と同じ銀灰色の大きな翼をはためかせて空中に留まる姿は初めて見るが、これが“烏天狗”なる遺伝子なのだろう。

「‥‥‥シキ、さん‥‥」
「ウォッチーくんだいじょーぶ?」
「は、はい‥‥今のところは」

ちょっとまっててね、そう言って高度を落としたシキに、漸く現状を把握した異界存在が飛びかかった。危ない!と叫ぼうとしたその瞬間にはすべてが終わった。
噴き出す赤色と舞い散る銀灰色に世界が包まれる。
鈍い音を立てて地に伏した巨体が息をしていないことは明らかだった。
その世界のなかでもやはり彼女は笑みを崩しておらず。
恐ろしいと思うよりも前に美しいと感じた。不思議な感覚。

「ソニックくんも、もういいよー?」

トン、と地に降り立ったシキの元に隠れていたソニックが姿を現した。何ともなくてよかったねーと笑う彼女の雰囲気と足元に転がる三つのそれがミスマッチすぎるが、危ない所を助けてもらったのだ。我に返ったレオがシキにお礼を言うと、にゃふふ、と返された。どうやら照れているらしい。

「あ!そろそろかえらなきゃ!」
「そうですね、もうけっこう遅いですし」

こうなってしまってはこれ以上外にいる気分ではない。レオも買い物は明日の朝一番で行こうと決めて、シキからソニックを受け取った。

「今日はマエストロとおふろなの!」

じゃあまたあした!と再びばさりと翼を広げるとレオの返事も聞かずに飛び立っていってしまった。あ、と声を出した時には既にその姿は小さくなっていて。

「風呂って‥‥‥‥っ、はああああ!!?」


最後にとんでもない爆弾を落としていったシキのせいで、この日レオが一睡も出来なかったのは言うまでもない。

_6/21
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