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スティーブンとシキ

上司が外に出てしまったために手伝う事もなくなったレオは、特にやることもないので相棒のソニックとライブラのソファーで戯れていた。
そんな昼下がり。
少しやつれた様子のスティーブンが数枚の書類を持って広間に姿を現した。

「クラウスー‥‥ってなんだ、いないのか」
「お疲れ様ですスティーブンさん。クラウスさんなら三十分位前に新しい鉢植えを買いに行くって出て行きましたよ」
「あー、それなら暫くは戻ってこないな」

急ぎでもないしいいか、とスティーブンはレオの向かいのソファーに腰掛けた。書類を無造作にテーブルに置くと、背もたれに全身を預けて大きく息を吐く。

「そういえば少年、シキを見たか?」
「いや‥‥見てないですけど」

レオの膝に乗っていたソニックもキキッ、とレオの言葉に同意するように鳴いた。それを聞いたスティーブンは先程とは違った溜息を零す。

「まぁーたあいつは‥‥」
「何かマズイことでも?」

んー、まぁ、と歯切れの悪い返事をしていたスティーブンだったが、最後には渋々といった風に席を立った。

「シキはな、一つのことを始めると他の事が疎かになるんだよ」
「はぁ‥‥」
「一度機械をいじり始めたら、それこそ誰かが止めるまで作業し続けるのさ。あいつ、昨日はここに泊まってくなんて言ってたから多分まだ部屋の中だ」
「えぇ!?それはマズイですよ!」

だからそろそろ止めに行かないと。歩き出したスティーブンは、レオがライブラに入ってから開かれた所を見た事がない扉に向かっていく。少しの好奇心と、シキの様子が心配で彼の後を追えば、丁度扉が開かれた所だった。

「うわぁ‥‥っ!」

決して狭くない(レオの家より広い)部屋の中はびっしりとディスプレイとコードで埋め尽くされていた。それこそ、壁から天井までぎっしりと敷き詰められたディスプレイは見た事もないような言語や数字で埋め尽くされている。
異様とも言えるその空間の中に、ちょこんと小さな体が座っていた。

「シキ」

スティーブンが一言、部屋の主の名前を呼ぶと頭の上の二対の耳を揺らしてソレは振り返った。己を呼ぶ者の姿をその眼に捉えると勢い良く走り出す。

「マエストロ!」
「シキ、また寝ずに作業してただろ」
「ちょっとは寝た!」
「食事はちゃんとしたのか?」
「‥‥‥‥、‥‥した!」
「分かりやすい嘘はつかない方が良い」

部屋の中も気になるが、見た事もないような和やかな会話をするスティーブンにレオは驚いていた。仲間には優しい目をする人だったが、このような姿は想像もできなかった。
呆気に取られている内に部屋を出ようとしている二人に慌てて続く。

「久し振りにスシでも食べに行くか?」
「すし!行く!」
「外では耳と尻尾はしまうんだぞ」
「わかってる!」

ちょこちょことスティーブンの隣を歩くシキが嬉しそうに彼の手を取ってはしゃぐ。そのままぶんぶんと手を揺さぶっていたが、スティーブンが咎める事は無く。繋がれていない方の手で、少しは落ち着けって、とシキの頭に触れた。その動作一つにもシキから発される幸せオーラはぶわりと大きくなった。

「少年、昼は食べたか?なんなら一緒に行くかい」
「い、いいいい、いいえ!!折角ですが留守番してます!!」

決して口に出さないが、親密な二人の間で食事なんて出来るはずもない。ましてやスティーブンが行く店など自分が到底行く事もないようなランクの店だろう。冷や汗を流すレオを見て、そうか、と首を傾けたスティーブンはシキの耳と尻尾が仕舞われたのを確認してから広間の扉に手を掛けた。少年、とスティーブンが振り返る。

「悪いけど、机の上に書類を置いておいたとクラウスが戻ってきたら伝えてくれないか」
「りょ、了解です!!」
「夕方には戻るよ」
「いってきまーす!!」

シキ、サーモンね!はいはい。
そんな声がパタンと閉じた扉の向こうへ消えた。

「娘にデレデレの父親‥‥」

こんなこと本人に言ったら氷漬けだけでは済まされないだろうが、レオは言わずにはいられなかった。肩の上のソニックもうんうんと頷いている。

飼主と飼猫よりも親子の方がしっくりくる二人だと、独りごちたレオナルドであった。


そんな彼らの日常を垣間見たある日の昼下がり。

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