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K・Kとシキ

命を賭けて戦う仲間である牙狩りの中でも、そりが合わない奴がいる。
K・Kにとってのその人物は、目元に大きな傷を持つ甘いマスクの男、スティーブン・A・スターフェイズその人であった。
エスメラルダ式血凍道という美しい技を受け継いだその男は、技に劣らず美しい顔をしていると思ったものだ。初めは。
何度か一緒に仕事をする内に、スティーブンの裏の仕事を少々知ることとなる。それから彼への態度が少し変わった。別に彼が嫌いだというわけではない。とても、それはもう気に食わないだけで。

暫くして、紐育がHLとなった。以前から交流があったラインヘルツ家の三男坊からライブラへの勧誘があり、快くそれに首を縦に振って事務所へ行ってみれば、あの、スティーブンもいるではないか。聞けば副官的存在だとか。まあ、クラウスとスティーブンの仲が良いのは牙狩りの中でもそこそこ知れた事実であったので不思議では無い。小さく舌打ちをして、己が握力をこれでもかと駆使してスティーブンと握手をしたその時。ソファーの後ろから伺うようにして、ひょこひょこと動く銀灰色の塊を見つけた。

「スティーブン先生?あれは何かしら?」
「ん?‥‥おぉ!僕らが日本で見つけて来た、新しい仲間さ」

「ほら、おいで」とスティーブンが膝を曲げ、腕を広げて、優しい声でそれを呼ぶ。この男はこんなにも穏やかな声が出せたのかと驚いた。
おずおずとソファーの影から出て来たそれは、可愛らしい女の子だった。K・Kは、自分の瞳がキラキラと輝いたのが分かった。
ソファーから身体を出したその子はぴゃっとスティーブンの腕の中へと飛び込んで、こちらを見上げている。金と赤の非対称の瞳を不安そうに揺らすその子に、スティーブンと同じ様にしゃがんで目線を合わせたK・Kはにっこりと笑って話し掛けた。

「ハロー、はじめまして。私はK・K」
「‥‥はじめ、まして‥‥シキです」
「シキちゃんね!これから一緒に頑張りましょう?」
「‥‥‥はい‥‥」
「こういう時は、よろしく、だろ?シキ」
「ん‥‥よろしく、です。K・Kさん」
「んんーー!!我慢できないわ!スティーブン、そこ変わりなさい!」
「おわ!」
「にゃぁ!?」

堪んないわぁー!可愛いー!!
感極まってシキをスティーブンからひったくる様にして抱き締めたK・K。至極幸せそうな彼女に対して、その腕の中にいるシキはくりくりとした目をこれでもかと大きく開いて固まった。今まで隠していた耳と尻尾も飛び出して、ぶわりとその毛が膨らんでいる。
あーあ、とK・Kの勢いによって床に尻餅を付いたスティーブンは苦笑した。K・Kが驚くといけないと思ってシキの事を説明してから実際に見てもらう手筈だったのに、と。
わしゃわしゃとシキの頭を撫でていたK・Kの手がついに二対の獣耳に触れ、「あら?」とその手が止まった。

「み、み?‥‥‥こっちは尻尾?」
「あー、K・K。これは僕から説明するよ。シキ、温室にクラウスがいるからそっちに行っていなさい」
「うん‥‥‥K・Kさん、また、です」
「え、ええ‥‥‥またね、シキちゃん」

緩められたK・Kの腕から出たシキは、飛び出してしまった獣耳を隠す様にパーカーのフードを被る。ぺこりと小さくお辞儀をして、そのまま奥へと入っていった。

「で?」

立ち上がったK・Kが、同じく立ち上がったスティーブンに腕組みをして鋭い目を向ける。シキの後ろ姿が完全に消えるまで、視線をそちらに向けていたスティーブンはゆっくりとK・Kと目を合わせた。

「ジャパニーズは控え目だって聞いてたけど、あの子の様子は控え目なんてものじゃ無いわ。あれは“怯え”よ‥‥‥ワケありなのね?」
「やっぱり君は凄いなぁ‥‥まあその通りさ‥‥‥それと、シキはHLここに来てまだ一週間だ。環境に慣れていないということもあるだろうけどね」

そう言った彼の目は、やはりひどく優しい色をしていて。
特定の人を作らずフラフラと上辺の関係を築く事が多かったこの男が。漸く落ち着いていられる相手を見つけたのかと、そう思って。

調子狂うわね、と思う反面でどこかほっとしている自分もいて。
K・Kは小さく笑んで、ふっと息をはいた。



×××



「シキっちー!」
「にゃにゃ!ねぇさん!」

あれだけびくびくと周りを伺っていた、まさに猫の様に警戒心が高かった様子は今はもうどこにも無い。
名前を呼べば嬉しそうに振り返り、手を広げればその中に飛び込んでくる。頭を撫でればゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄ってくる。
最初は“K・Kさん”と言っていたのに、ザップが加入してからは彼の真似をして“ねぇさん”と呼ぶ様になった。さん付け呼びを少し懐かしいと思いつつ、しかし“ねぇさん”と呼ばれる度にシキとの距離が縮んだ事を実感出来るわけで。

「んもぅ、シキっち大好きよー!」
「シキもねぇさん大好きー!」

ぎゅう、と抱き締め合って笑い合う。

娘の様なこの子がもっと、ずっと、今までの分まで幸せであれる様に。

子を持つ母として、スティーブンやクラウス達とはまた違った方向からシキを見守っていこうと再度思い直すK・Kであった。

_11/21
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