×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

ザップとチェインとシキ

「なあシキ、ゲーム機直してくれよー」
「えーまたぁ?べつにいいけど‥‥」

ボタンの調子が悪くてよ、とザップからゲーム機を受け取ったシキは分解してみると言って個室の中へ入っていった。ただ待つのみとなったザップが、ごろんとソファーに寝転ぶ。それを見ていたレオが、横になったザップをのぞき込んで口を開いた。

「シキさんってホントに機械に強いんですね‥‥でもいいんですか?ちゃんとした場所に送らなくて」

確かゲーム機を指定された工場に送らず、個人で改造や修理を行うと返品等に応じてもらえなくなるといったことがあったはずだ。シキの腕を疑っているわけではなくその意味を含めて問えば、ザップは眉間に皺を寄せて、アホかお前と言わんばかりの目でレオを見た。

「んなことしてたら金も時間もかかるだろうが」
「そんな理由で正規の手順使わないのかよ」
「それ以外に何があるってんだよ」
「イエ、モウイイデス(本当にしょうもないなこの人は‥‥)」

レオの目が心の内を物語っていたのか、「文句あんのかゴラァ!」とザップが思い切り長い足を振り上げてその頭に踵を落とした。突然の出来事に、レオは悲鳴を上げながらも両手を前に突き出して防御の体制をとる。

「真剣白刃取りッ!」
「うおっ!?」

レオの思わぬ抵抗に驚いたのと、片足が持ち上がったままになってしまったことでバランスを崩し、ザップは頭から上半身が床へと落下した。ゴチンともガツンとも言えぬ鈍い音がして悶絶するザップ。対するレオは日頃の仕返しだ、とにやりと笑んで両手で受け止めた足を手放した。

「ってぇー!おまっ、どこで覚えたこんな技!!」
「へへーん!YouTubeで見ましたー!」

高笑いをするレオに苛立ちが増したザップは、唇に歯を立ててプッと血を吐き飛ばす。空中で網のように広がった血液は、べしゃ、とレオの顔へと命中した。呼吸が困難になったレオが必死に剥がそうとするも、粘着質なそれは中々取れない。頃合いを見て血液の網を消したザップは、大きく肩で息をするレオへ先程彼がしたような笑みを浮かべて満足げだ。
一連の出来事をデスクから見ていたソニックはやれやれ、と小さく息を吐いた。

「なおったよ、ザップ‥‥ってウォッチ―くん?」
「おっ!サンキュー!なに、ちょぉぉっと先輩が後輩に指導しただけだ」
「はっ、はぁ‥‥ッ!よく、言うっ!」

満身創痍とでもいうようなレオに興味が失せたザップは、上機嫌にシキからゲーム機を受け取ってソファーに座り直した。レオはそんなザップの様子を横目に睨みつけるが、ザップの意識が完全にゲームへ向いているとわかると脱力して向かいのソファーに倒れこんだ。デスクからぴょんと顔の横に飛んできたソニックが頬をつついてくるのを黙って受け入れる。

「ちゃんと動く?」
「ばっちりだ。ホレ」
「んにゃ?」
「飴だ、アメ。歩いてた時に試供品でもらったんだよ」

報酬な、と手渡されたグリーンの包装を見てみると、名の知れたお菓子メーカーのロゴが書かれていた。早速包装を剥がしたシキは、透き通ったライトグリーンの球体を口に放り込む。ころんと転がしてみれば、爽やかなマスカットの味がした。

「おいしい!」
「そらよかった。おい、」
「に"っ!?」

飴玉に上機嫌になったシキは獣耳と尻尾を揺らして、未だぐったりとしているレオに近づこうとした。が、それはザップに腕を引かれたことで、だらしなく広げられた彼の足の間に収まった。
シキはいきなりされたことが不満でザップを見上げるが、「前見てろ」と大きな手で頭を押さえつけられる。そのまま頭の上に顎を載せてきたザップに流石に我慢できなかったのか、べしっと強く尻尾を彼の腕に叩き付けた。

「ザップ、いたい」
「アメ食ってじっとしてろ。この高さが丁度いいんだ」
「むう‥‥」

べしべしと尻尾で反抗するが、一向に離してくれないザップに、シキは諦めて大人しくされるがままになった。
ころん、ころん、と少し小さくなったアメを転がす。

ぼんやりとそんな二人の様子を見たレオはのっそりと体を起こすと、深くソファーに座った。

「なんか、お二人って兄弟みたいですね」
「なに言ってんだ陰毛」
「手のかかる弟ですにゃー」
「はあ?なんで俺が下なんだよ。逆だろフツー」
「ああ、いや、深い意味ではなく、ほら、色とか」
「んー?ああ、シキたち白っぽいもんねー」

じゃあソニックくんも兄弟だ、とシキが笑えば、いでででで!とザップが喚き出した。このパターンは、彼女が帰ってきた合図だ。

「色の前に、あんたはモンキーだから丁度いいんじゃない?」
「チェイン!おかえり!」
「降りろ雌犬!」
「ただいま、シキ」

ふわりとザップの上から降りたチェインは、顎置きにされているシキを抱き上げた。「変なもの付いてない?」と柔らかな銀灰色の髪を払ったチェイン。シキはそんなチェインの優しい手つきに喉を鳴らした。
気持ちよさそうにチェインの首元に擦り寄ったその二人の距離感が何とも言えず、見てはいけないものを見てしまったような気持ちになったレオは、ほんのり頬を染めて視線を逸らした。当の本人達もザップも慣れた遣り取りなので何の気にも留めていないのだが。

「そうだ、シキ」
「にゃ?」
「これね、通りで配ってたからもらったの。あげる」
「にゃっはー!ありがとうチェイン!」

ぽとりと手に落とされたのは先程とは違った色の包装紙。パープルのそれはグレープと書かれていた。あ、と思わずレオが声を上げれば首を傾げるチェイン。「それ、さっきザップさんも持ってて‥‥」と理由を言えば、げえ、とチェインは苦い顔になった。

「最悪だわ」
「なんでだよ!こんぐらい偶々だろうが!」
「それでもよ、クソモンキー」
「それやめろよ!」
「まーまー」

チェインの腕からするりと抜け出したシキは二人の間に立つと落ち着いて、となだめ始めた。最初の飴を舐め終えたシキは、パープルの包みから出した中身を口に入れるとにっこりと笑う。

「おいしいよ。二人とも、ありがと」
「‥‥‥おう」
「‥‥‥ならよかった」

一瞬にして言い争いを止めて見せたシキに、レオは内心拍手を送る。
そして、何時もの様子からはあまり考えつかない“姉”の姿に、はは、と声を零した。



この後事務所に帰ってきたスティーブンも、彼に似つかないピンク色の小さな包みを持っていたのはまた別の話。

_10/21
[ +Bookmark ]
PREV LIST NEXT
[ TOP ]