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おつかいに行く

ズボンのポケットに入ったクラウスからの手紙と、パーカーの内ポケットに入れたスティーブンの財布をスリの手から守りながら、シキは鼻歌交じりで霧の街を歩く。途中、下心や悪意を持って絡んできた輩を返り討ちにしつつ、花屋への道を進んでいた。小柄な人類型の女が一人で歩いているせいか、絡まれることが多く思いの外時間が経ってしまっている。
シキは歩調スピードを上げた。
サブウェイでの買い物もあるので、おそらく腹を空かせているだろうスティーブンたちを長く待たせたくなかったからだ。

以前、クラウスと歩いた道のりを辿る。
ここから二つ目の角を曲がれば花屋はすぐそこである。
シキは駆け出した。



×××



辿り着いた花屋の前で止まり、息を整える。花特有の優しく甘い香りに気持ちを昂ぶらせながら扉に手をかけ、ゆっくりと押した。扉についた鈴がチリンと鳴って、その音に反応した店主と目が合う。

「やあ、君はミスタ・クラウスと一緒にいた‥‥シキちゃん、だったね」
「うん。こんにちは」

この花屋は人類型の老夫婦が営むものだ。迎えてくれた店主が店の裏へ声を掛けると、顔を覗かせた夫人も「あら、」とにこやかにシキに挨拶をした。
「今日はどうしたんだい?」と膝を折って目線を合わせてくれた店主にシキは預かってきた手紙を渡した。

「リーダー、今いそがしいからシキがかわりにきたの!」
「そうかい、おつかいか。偉いねぇ」

店主と夫人の褒められたシキはにゃふふ、と笑った。そして、手紙を読んだ店主は承りました、と注文受付書を書くために店の奥へと入っていた。その間にシキは夫人とたわいのない会話をして時間を潰す。シキの話に笑顔で相槌を打つ彼女からは花や肥料の匂いがして、クラウスと同じ匂いがする、とシキはひどく心地良かった。
暫くして戻って来た店主から受付書を受け取って、「またおいで」の二人の言葉に満面の笑みで答えるとシキは花屋を後にした。

さぁ、次はサブウェイだ。



×××



「あ、」
「んぁ?なんだ‥‥ってシキじゃねーか」

昼食を終え、ライブラの事務所への帰路に着いていたレオとザップの二人は、異界存在の間をちょこちょこと歩くシキを見つけた。紙袋を両手でしっかりと抱いている姿を見て、レオは珍しいですね、と零す。

「僕、ライブラに入ってからあんまりシキさんが外に出てるの見たことなかったです」
「俺もあんま見たことねーぞ。あー、アレだ。ほら。ヒキコモリ」
「仕事熱心ってことでしょーよ。アンタと違って」
「んだとゴラァ!」
「っ!いってぇ!」

ゴン、と鈍い音がして、頭を殴られたレオと、殴った手の痛みからザップが悶絶する。通りすがりの人たちが「ザップがまたやってるぞ」と騒ぎ立てた。すると、耳が良いシキにはそれらの声が聞こえたのだろう。辺りをキョロキョロと見回して名前の主を探した。案外すぐに見つかった彼の姿を目に捉えて、それを目指して足を動かした。シキが側まで来たことでそれに気が付いた二人に、にゃっほー!と話しかける。

「ザップ、ウォッチーくんも、なにしてるの?」
「ってぇ‥‥何でもねぇよ」
「そういうシキさんはどうして外に?」

視線を紙袋に合わせて首を傾げるレオに、シキはそれを掲げて見せた。

「‥‥サブウェイ?」
「なんだ、くれんのか」
「ちがうよ!おつかいなの!」

今かえるとこ!とシキはこれまでの経緯を話した。お疲れ様ですと笑ってくれたレオに、嬉しくなって思わず出かけた耳を慌ててしまう。
それから、二人も事務所に帰るところだったということを聞いて、三人で一緒に帰るとこになった。レオとザップの前を行くシキの肩に、ソニックが飛び乗った。キィ、と鳴いたソニックと目を合わせてシキはふにゃりと笑む。

「うにゃ、ソニックくん。君もいっしょにかえろーね」


スティーブンとクラウスが優しく「おかえり」「よくやった」と迎えてくれる。
クラウスに受付書を渡して、スティーブンに財布を返して、そしてギルベルトが用意した飲み物で、四人でシキが買ったサブウェイを食べるのだ。
浮かんだ幸せな光景に、シキは紙袋を抱え直した。

_9/21
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