クロッカス | ナノ
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▽ クロガネ


今から三年前、つまりは2016年。
6月20日。
午前10時32分。
東京、羽田。
JUDACORPORATIONの海上施設「新浮島」の建設現場で起きた事故は、人工衛星の落下による事故と発表された。
社会科見学としてその場にいた一人の少年が、その事故に巻き込まれたという報道が世に出回った。
少年は意識不明ではあったが、幸にも大きな怪我はなかった。

半年後、少年は目を覚ます。

自分の身に、世界に、何が起こったのかも知らずに。



×××



ピピピ‥‥‥という味気ない電子音に気が付いたセーラー服の様にも見て取れる黒い制服を着た少女、城崎絵美は、自身のスカートのポケットから携帯を取り出した。
“水霧さん”と表示された画面を確認して電話をとった。

『もしもし、絵美ちゃん?今そっちにマキナと思われる熱源が確認できたんだけど‥‥現れたのかい?』
「はい」
『そうか‥‥了解。あ、人形ヒトガタの信号も切れちゃってさ‥‥何かあったの?』
「はい、用意した人形は全滅しました」
『‥‥それは、ファクターが?』
「いえ‥‥それは、まだ」

逃げ惑う人々の声が辺り一面を占める中、電話口の優しい声は何時も通りに城崎に語りかけ、対する城崎も真面目な彼女らしいしっかりとした態度で状況を報告していく。

「ですが、情報が正しければ他のマキナが現れるのも時間の問題かと‥‥」
『じゃあ、あの子のが‥‥』
「‥‥はい、そうです。彼があのマキナのファクターで間違いないと思います」

「そっかー、了解」とのほほんとした返事を水霧は返して、「あ、」と続けた。

『JUDAの人達を迎えに手配したから、今から送る地図の場所で待っててね』
「分かりました、ありがとうございます」
『気をつけてね!?怪我しないでよ、絵美ちゃん!』

突然の慌てように城崎がくすりと笑みを零すと、電話の向こうで水霧を呼ぶ声が聞こえた。水霧はそれに「今行きます!」と答え、城崎にもう一度「気をつけてね」と念を押して電話を切った。
その直後、再び電子音が鳴り、水霧から言われていた地図が送られてきた。
場所を確認し、ぱちん、と携帯を閉じると、城崎は逃げる人々の中に紛れるようにその場を後にした。



×××



翌日、“巨大ロボットが現れた!”という話題に世間が盛り上がる中でJUDA特務室は動き出していた。

「搭乗者の方々、今回の目的はマキナ及びそのファクターの捕獲になります。ですが、くれぐれも無理はしないでください。相手の“マキナ”の性能はまだ未知数です」

「了解」とそれぞれに返答してきた通信が途切れ、城崎はふぅ、と息を吐いた。
その方にぽんと手が置かれ、振り返ってみると心配そうな顔をした水霧が立っていた。

「大丈夫?昨日の今日で仕事が立て込んでるから疲れがとれてないんでしょ。ここは僕が見てるから少し休んだら?」
「いえ、そんなわけには‥‥!」

疲れているのは水霧さんも皆さんも同じです!と首を振る城崎に、水霧は困ったように笑うと艶やかな黒髪を撫でた。

「辛くなったらすぐに言うんだよ」
「ありがとう、ございます‥‥」
『大丈夫ですよ、城崎さん』
「!」

突然の声に左端のモニターに二人が目を向けると、そこには不適に笑う男が映し出されていた。

『私も待機してるコトですし』

城崎はその声にぎこちなく笑顔を、水霧は呆れたような顔をした。

「‥‥‥‥よろしくお願いします。森次さん」
「玲二、やりすぎたら駄目だからね!」
『‥‥‥‥分かってますよ』
「何その間は!!?」

きゃいきゃいと(一方的に声を荒げているのは水霧だったが)言い合いを始めた二人に、城崎は心が癒されるのを感じていた。

暫く続く上司達の可愛らしいやり取りを作戦部隊のオペレーター達がほんわかと見守っていたその時、ビーッという作戦開始が近付いたことを知らせる音が響いた。

「えぇ!?もうこんな時間!!?」

慌てて森次との言い合いを止め、白衣をはためかせながら忙しなく最終確認を始めた水霧を見て、城崎は緊張からか、仕事への責任感からか、ぎゅっと力強く手を握りしめた。

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