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▽ 作戦変更


『本物の暴力を教えてあげよう』


遊ぶようにラインバレルを一方的に痛めつけている森次もといヴァーダントを見て、城崎は息を呑み、水霧は頭を抱えた。

『うあぁあああぁぁああ!!!!』

ラインバレルからファクターの悲痛な叫びが聞こえてきて、水霧は眉間に皺を寄せる。

「玲二‥‥やりすぎないでって言ったのに‥‥‥大丈夫かなぁ、ハヤセコウイチ君」

そろそろ止めに入らなければ、と水霧が動いた時、通信が入った。

「社長からだ‥‥どうしたんだろうね、絵美ちゃん」
「ええ‥‥‥‥‥‥っ、これは!」

命令である送られてきたメール文章を読み終えた二人は慌ててヴァーダントとの通信回線を繋ぐ。

「ストップだよ、玲二!!」
「森次さんっっただちに作戦を中止し撤退してください!」
『‥‥‥!捕獲指示が出ていたハズですが?』

ラインバレルに剣を刺したまま、森次は突然の通信にヴァーダントの動きを止める。

「はい。ですが今、社長直々に撤退命令が出たんです」
『‥‥‥了解しました。コピー達の回収はこちらで行い、ただちに撤退します』

ガゴンッ、とバインダーを畳ながら漸く剣を納めたヴァーダントを確認し、水霧も森次に声を掛ける。

「玲二、コピー達の回収、輸送は穏便にお願いね」
『了解です、弥宵さん』

ヴァーダントがコピー達を持って跳躍するのを見て映像通信を切ると、水霧はオペレーターと城崎へ笑いかけた。

「それじゃあ僕達も戻りましょうか」


×××



数日後、森次と水霧は社長室を訪れていた。
政府からの通達を社長秘書である緒川が読み上げ、石神がくるくると箸を弄びながら面倒臭そうに政府との関係に愚痴を零す。
森次の隣に座っていた水霧はそれに苦笑した。

「ごめんねぇ、水霧君。こんな話聞かせちゃって」
「いいえ、構いませんよ。」

手に持っていた先日のマキナ、ラインバレルについての資料を整えながら答える。その時、目に入った自身の腕時計が示す時間に「おっと、」と声を上げた。

「ん?どうかしたのかい?」
「すみません、サトル君に呼ばれていて‥‥‥報告も終了したのでこれにて、」

腰を上げようとした水霧を止めるように、石神は「そのラインバレルんだが‥‥」と呟いた。
その声にすとんと身体をソファへ戻すと、水霧は首を傾けた。

「やっぱり回収しちゃってくんない?今日あたり。」
「いいんですか?面白そうだからって泳がせていたのでしょう?」

だってぇ‥‥と石神は続ける。

「せっかく遊ばせようと思ってたのに彼、全然行動しないんだもん‥‥‥まぁ、無理もないか。あれだけ怖い思いされられたんだ。いたいけな少年の心に傷を負わせちゃったねェ、森次君」

わははは、と笑う石神にちろりと隣の森次を見ながら水霧はうなだれた。

「その件については‥‥‥すみません、事前に僕からも玲二に言ったんですが‥‥‥」

コラ、と水霧は肘で森次を小突いた。対する森次はふぅ、と息を吐いて眼鏡のブリッジを押し上げる。
そして、「誤魔化さないの!」との声に気まずそうに視線を動かした。

石神はにこにことその様子を見ながら話を戻す。

「ここ数日間城崎君からの報告にも変化は見られないし‥‥‥つまんなくってさァ。今の彼には過ぎた代物だったてコトかな‥‥‥というワケで二度手間取らせるようで悪いんだけどさ、よろしく頼むよ」
「わかりました」
「了解です」

先に立ち上がった森次に手を引かれて水霧も席を立つ。
すくっとよろけずに立てるようになったのは自身が義足に慣れたのか、森次の手が嫌に優しいからか。
ありがとう、と森次に微笑みかける水霧。この光景も水霧が正式に入社してから自然に行われてきた事だ。

「ああそれと、何があるかわからないから山下君のハインド・カインドも連れて行ってよ」
「わかりました。手配しておきますね」

頼むね〜と笑う石神と、小さく手を振る緒川に二人は一礼をすると社長室を後にした。

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