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  素直になって


同じ街で育った同世代の友人たちと一緒に旅に出た。自分探しだと言う人もいれば、暇潰しだと言う人もいる。かくいう私も暇潰しの1人だ。特に就きたい仕事もなく、やりたいこともないので、旅に出ることに決めた。


今日は、夕食に使う木の実を探すために、みんなで森へ入った。
のだが。

「あれ?みんな、どこ...?」

迷ってしまった。
ついさっきまで一緒にいたのに、辺りを見渡しても全く姿が見えない。
日も暮れてきて、視界がだんだん悪くなってきた。
もし今妖怪にでも遭遇したら。
そんな嫌な予感が頭をよぎり、背中に冷たい汗が流れる。

ガサッ

「ヒッ!?」

近くの草から音がして、思わず小さな悲鳴が漏れる。妖怪...!?と思って身体が縮こまる。
音がした場所の方を見つめていると、現れたのは、棒を杖のようにして立っているよれよれの少年だった。

「は〜ら減った〜〜」

現れた人物が想像していたものとは違い、少しだけ気が緩む。
妖怪じゃなくて良かった...とホッとしながらも、急に現れた人物から視線をそらさないでいると、向こうもこちらの視線に気付いたのだろう。
目が合った。

「ん?誰だ?」

それはこっちのセリフでもあるのだが...。

「あ、えっと...ミサと言います。仲間とはぐれてしまって...」

少年が悪い人ではなさそうに見えたので、素直に自分の名を名乗った。すると、少年も自己紹介をしてくれた。
彼は悟空というらしい。
よろしくね、とお互いがあいさつを交わしていると、悟空の後ろの草がガサゴソ動き、3人の青年が現れた。

「っだー!やーっと見付けたぜ!」

大きな声を上げながら悟空に近付く赤髪の男の人。長い髪をかき上げながら、悟空の頭にゴツンと拳をぶつける。

「いってぇ!!悟浄何すんだよ!?」

ぶつけられたところを押さえながら、悟浄と呼んだ男の人へと突っかかっていく。

「お前がどんどん先に行っちまうからだろォが!」

「ほんとですよ、悟空。はぐれてしまったら困るじゃないですか」

「...おい、テメェは誰だ?」

金髪の僧侶のような服を着た男性が私の方を睨む。
その声で、他の2人も私に気付く。
紫色の冷たい視線に怖気付いて何も言えないでいると、悟空が代わりに説明してくれた。

「こいつ、ミサっていうんだって!仲間とはぐれちまったらしいぜ」

そうなのか?という目線に答えるように何度も頷く。
仲間と一緒にこの先の大きな街に行く予定だったことを告げると、彼らも方向が同じだということで、仲間と合流するまで彼らと一緒に旅をすることになった。


暗い森から抜けて、小さな街にたどり着いた。
ここなら飲食店もあるし、宿もある。
今日はとりあえず、この街で1泊することにした。
街に着くまでの間、4人といろいろな話をした。彼らは少しガラが悪そうに見えるが、とてもいい人たちばかりだ。優しくて面白い。
はぐれた私のことも気遣ってくれる。
いい人たちに助けてもらえて良かった。
そう思いながら、私たちは街で1番繁盛しているという飲食店に入った。

料理を待っている間も楽しく話をしていたのだが、やけに悟浄の視線が気になる。

「あの...さっきから私の方を見てるけど...。私何かついてる?」

「ん?あぁ、気にすんな」

そう言って口角を上げる悟浄。
私の気にしすぎかな...。

晩御飯を食べ終えた私たちは、宿に向かった。
運良く5部屋空いていたので、贅沢に一人一部屋使わせてもらうことにした。
仲間と旅をしていたときは、お金があまりなかったので、野宿が多かった。
こうやって、一人一部屋でベッドで寝られるなんてどれだけ久しぶりだろう。

コンコン

あまりの嬉しさにベッドにダイブしたとき、ドアをノックする音がした。
ドアを開けると、悟空がいた。

「この街、ホタルが見れるんだって!一緒に行かねえ?」

悟浄と八戒も一緒だという。面白そうなので二つ返事で行くことにした。
外に出ると、先に降りていた2人が私と悟空を待っていた。
少し歩いた先に綺麗な川があり、そこでホタルが見られるらしい。
夜道は危ないから、と悟空と八戒が先頭を歩く。そのあとを私と悟浄が着いていく。
悟空たちは2人で話をしているので、私も悟浄と他愛もない会話を交わす。
会話自体は何の変哲もないのだが、またもや彼の視線が気になった。

「ねぇ、悟浄...やっぱり私、何か変?」

私の顔に何かついているのだろうか?
真剣な眼差しを向けたが、彼の答えは先ほどと同じだった。

何となくモヤモヤしたまま歩き続けると、前方にチカチカと光が見えてきた。
川のせせらぎ音がだんだんと近くなる。

「すげー...!」

いつもはうるさい悟空も、この時ばかりはホタルを気遣ってか、小声だ。
先程まで私を見ていた悟浄も、今はホタルを見ている。
何であんなに見られていたのか不思議だが、あまり気にしないことにした。

数十分滞在した後、宿に帰ってきた。
みんながそれぞれの部屋に帰っていき、私も部屋に入ろうとしたとき、悟浄に呼び止められた。
ドアを開けたまま振り向くと、悟浄の顔が何故か私の肩にある。
数秒後、ようやく状況が飲み込めた。
私は今、悟浄に抱きしめられている。
腰に手が回され、鍛えられた胸や腹筋が私の身体に密着している。

「なっ!?ちょ!悟浄!?」

やっとのことで声を出し、身をよじると、悟浄の腕から解放された。
ニヤッと口角を上げて、

「おやすみ」

とだけ言って、自分の部屋へと帰っていった。
突然の出来事に心臓がドッドッドッと鳴っているのが聞こえる。
しばらくベッドの端で放心状態に陥った。
何故あんなことをされたのか全然分からない。必死に考えをめぐらしたが、まとまらないので、布団を勢いよくかぶって、寝た。
せっかくのベッドだったのに、居心地は悪かった。


朝。
起きて外で集合した時に、チラッと悟浄を見たが、彼は昨日のことなどなかったかのようだ。
私と目が合っても、普通にあいさつをしてくる。
どぎまぎしながら返事をする私。
あれは、夢だったのではないかとさえ思えてくる。
モヤモヤが大きくなったが、言葉にはせず、ジープに乗り込んだ。

その日の夕方にたどり着いたのは、昨日よりも大きい街だった。
仲間が目指していた街は、この街の隣だ。
といっても、かなり距離があるので、ジープで彼らと一緒に行った方が良い。
彼らとの旅もあと少し。少し寂しいような気もするが、良い思い出を作りたい。
だから、悟浄のことは水に流すことにした。

宿に着いて、部屋をとる。
今回も一人一部屋だと嬉しいな、なんてワガママを思っていたのが悪かったのか。
蓋を開けてみれば、私は悟浄と2人部屋だった。

今回は2部屋しか取れず、グッパで分かれた。その結果がこれだ。
誰かと一緒になるのは構わなかった。でも、悟浄だけは避けたかった。彼は何も無かったかのように振舞っているが、こっちは気が気じゃない。
ジロジロ見られ、抱きつかれ、挙句の果てに同じ部屋だなんて、何をされるか。
私は八戒の元へ行き、部屋を替えてくれと頼んだ。

「え?部屋を?」

「お願い!」

優しい八戒なら、替えてくれるはず。
そう思っていたのだが。

「んー...僕と三蔵は明日からのルートについて話をしたいので、替われませんし...。悟空と悟浄が一緒だとうるさくなって他のお客さんにご迷惑ですし...。悟浄と三蔵が一緒だと部屋が煙たくなるので...」

そういうわけで、すみません。
とにこやかに断られてしまった。
まさか断られるとは思っていなかったので、目の前が真っ暗になったような気分になった。
悟浄と二人きり。
何も無いことを祈るしかなかった。

夕飯とお風呂を済ませた後、部屋に帰って寝支度を整える。
悟浄はというと、特に何かをしてくるわけでもなく、至って普通だった。
私の思い過ごしかもしれない。
普通に話をし、普通にベッドに横になる。
なんだ、何事もないじゃないか。
おやすみ、と悟浄に言って背を向ける。背中越しにおやすみと返事が来た。
それを聞いて、安心して眠りについた。

どれくらいの時間が経ったのだろう。
布団に違和感を感じ、私は目が覚めた。
背中の辺りがモゾモゾする。
何かと思って寝返りをうつと、数センチの距離で悟浄と目が合った。

「きゃ、んぐっ!」

思わず叫びそうになり、悟浄に手で口を塞がれる。
息が苦しくなり、もごもご言っていると、やっと手を離してくれた。

「っはぁー!いきなりびっくりしたじゃない!」

少し間をとって、悟浄の方を向く。

「悪ィな」

悟浄も私の方を向いて寝転ぶ。

「どうして私のベッドに来たの?」

悟浄の目を見て言うが、悟浄は罰が悪そうに目を逸らし、あー...と呟くだけ。
今までとはどこか違う悟浄を不思議に見ていると、また目が合った。

「あのさ......あーやっぱり何でもねぇわ。おやすみ」

そう言って、身体を起こして背を向け、自分のベッドに帰って行く。
何かを言いかけてやめた彼が気になり、身体を起こし、悟浄に話しかける。

「何か悩みがあるなら私、聞くよ?」

すると、悟浄は振り返って優しく笑う。

「ほんっとお前お人好しねェ」

そう言いながら再び悟浄は私のベッドへ乗る。
その行動をただただ見ていると、悟浄が近付いてきて、

「っ!」

抱きしめられた。
どうしていいか分からず、悟浄の肩を手で軽く叩くが反応はない。
それどころか、そのまま押し倒されてしまった。

「ちょっと!ごじょ...!」

悟浄を押しのけようと必死に肩を押す。
少し距離が取れ、顔を見ると、真剣な眼差しで私を見ていた。
思わず、息が止まる。
だんだん顔が近付いてくる。
このままじゃ、私、悟浄と...。
反射的にぎゅっと目をつぶると、ぷっと吹き出す声が聞こえた。
それに反応して、目を開ける。

「なーんちゃって」

ワハハハッと豪快に大笑いする悟浄。
騙されたと分かり、ふつふつと怒りがこみあげてくる。

「悟浄!あなたいい加減に、わっ!?」

悟浄に説教してやろうと思っていたら、突然脇腹がこそばゆくなった。

「あははっ!やっやだ!ふふっ!やめてったらっははは!」

「キスでもされると思ったかァ?そんなむっつりにはくすぐりの刑だ」

「やだ!もっ!はははっ!」

最初こそ、くすぐったくて楽しく笑っていたが、やめてと言ってもやめないことに、だんだん腹が立ってきた。

「ねぇっごじょ、やめてっ!っふふ!」

くすぐられているため笑いも漏れる。それ故に本気が伝わらないのかもしれない。
何を言っても悟浄の手が止まらない。

「ナニ言ってんのヨ、楽しいくせに」

今度は脇やら首やらをくすぐられる。

「きゃ!ん、やだぁ!」

手で抵抗するも、軽くあしらわれる。
この行為が嫌で仕方ないのに、一向にやめてもらえないことに涙が出てきた。

「っ!」

それに気付いた悟浄はようやく手を止める。
慌てて私に謝罪の言葉を述べる。

「わ、悪ィ!イタズラが過ぎたな...ホントに悪かった」

「うっ...やめてって言ったのに...!やだって...!」

涙を流す私の身体をそっと抱き起こし、引き寄せる。悪かった、と口にしながら、背中を優しくさする。
腹が立っていたはずなのに、何故か安心した。

しばらくの間、悟浄に優しく背中をさすられながら、私は心を落ち着かせた。
泣いたせいか、悟浄の手に安心したせいか、だんだんと眠気が襲ってくる。
瞼が重くなるのを感じ始めた時、悟浄が口を開いた。

「...カッコわりぃ」

「...なにが...?」

悟浄のボソッとした声に反応して、狭くなりつつある視界を頑張って広げる。
悟浄は、私がもう寝ていると思っていたのだろう。寝てなかったのか、と呟いた。

「オレがカッコわりぃんだよ」

どうして?と小さく聞くと、悟浄は今までずっとさすり続けてくれていた手を止めて、答えるのを躊躇う。
気になった私は、睡魔で重たくなった瞼を開けて悟浄を見上げる。
すると、悟浄も私を見ていたようで、目が合った。が、すぐにそらされた。
少しの間、見続けていると、また目が合った。何だか少し照れているように見える。

「はぁ...オレさ、お前のことが好きなんだわ」

耳を疑った。
眠気も一気に吹き飛ぶ。

「好きだからお前にちょっかい出したりしてよ...ガキかってな」

頭をかきながら、答える。
ずっと私を見てたのも、抱きついてきたのも、私を好きで、した行いらしい。

「でも、好きなオンナを泣かせちまうなんて、最低だな」

眉を下げて言う悟浄に、言葉を返す。

「...ほんとだよ。やめてって言ってるのにやめてくれないし...」

だよな、という言葉と共に乾いた笑いを吐き出す。

「でも、悟浄は優しいし...一緒にいて楽しいし...安心できる存在だよ」

「えっ...?」

私の言葉が予想外で、悟浄が目を開く。
悟浄が私に楽しい話をしてくれたこと、私が眠るまで背中をさすってくれようとしたこと、抱きしめられてさすられているとき安心できたこと。
全てを話した。

「男の人として好きかどうかは、まだ分からないけど...。でも、悟浄といると安心するんだ」

そう言って、微笑む。
悟浄は、表情を見せないように手で口元を押さえる。けど、目を見れば、彼が嬉しがっているのが分かる。

「だからさ、これからは素直に私への愛を表現してね?」

少しイタズラっぽく笑う。
悟浄は、完敗だと言って肩をすくめながら、私をもう一度優しく抱きしめた。


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