-の居場所-






電話が、鳴った。


『もしもし、骸? あ、俺だけど。』
「…、きみですか。」


受話器を取るとそれはボンゴレファミリーのボスからで、電線越しのその声に思わず溜め息が出た。
滅多に電話などしてこないくせに、たまにかけてきたかと思えば面倒な任務ばかり押し付けてくる。


「任務ならこの間長期のものを受けたと思いましたが?」
『ああ、うん。それね、山本に代わってもらったから。』
「は?」
『だからちょっと戻ってきて。大事な話、あるから。』
「…。何ですか?」


ああ、どうせ今よりも厄介な仕事の話なんだろう、代わりを寄越すくらいなんだから。
そう思いながら一応話だけは聞いておこうと先を促した。
次の言葉は衝撃だった。


『凪、いや…、クロームの記憶が戻ったんだ。…多分、全部。』





「どういうことですか。」


電話越しに会話した翌日、挨拶もなしに本部の執務室に入ると同時に彼に問いつめた。
入ってきた僕ににっこりと微笑んだ彼は言う。


「どういうことも何も、記憶をなくしたクロームが自分の過去を知ろうとするのは当然だろ?」
「だから上手く隠してくれと言ったじゃありませんか、何のために僕がクロームの髪をほどいたと思ってるんです。」
「そんなこと言ったっていつまでも隠し通せる訳ないじゃないか。それに、」


彼はそこで一度言葉を区切ると、一呼吸おいた後で今度は真剣な眼差しを僕に向けた。
重々しい響きを持つ声で、はっきりとした口調でこう問いかけてくる。


「お前とクロームの繋がりって、そう簡単に切れるものなのか?」
「…っ!」


すぐに答えることができなかったのは、きっと。
それを肯定するにはあまりに深くクロームと関わってしまったせいで。
それを否定するにはあまりに浅はかな気がして。


「…、」


微かに笑ったらしいボンゴレは席を立つと隣の部屋に通じるドアの前に立った。
彼特有の、人を安心させる笑みと共に言い放つ。


「少なくとも向こうは、そうは思ってないみたいだけど?」
「――な、」


敢えて、彼が開けずに触れただけのドアの向こう。
彼の言葉に、もう二度と会うまいと決めたクロームが僕を待っているのだと知った。





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