ちょんちょんと肩をつつかれ、後ろを振り向く。
 あ、これ、二度目だ。
「遅くなってごめんなさい」
 ただあの時と違うのは、もう見知らぬ人ではないってことと、今日のロビンはスカート姿だということ。
 すらりと伸びる脚を覆っている黒いタイツは、膝の部分に肌色が透けて見える程度とはいえ、ストッキングよりは全然濃いのに色っぽい。
 大人の女って感じ。
 感じっていうか、実際そうなんだけど。

「ええ、乗り合わせていたわけじゃないのよ。私は下りの各停に乗っていたのだけど、止まっている間に上りのホームであなたを見かけて、気がついたらふらふらっと」
「へー……」
 ロビンが来て何か頼むかと聞いたら結構だと言ったから、そのままトレーを片付けて店を出た。
 ロビンの家まで歩きながら、さっき気がついたことを話してみたんだけど、そしたらこの返事。
 もしかしてロビンって、衝動買いとか激しいタイプ?
「えっ、そんなことは無いと思うけど」
「そう? なんか、今の聞くと気になったもの見かけたらすぐついてっちゃうみたいだから」
「……あ、でもそうね、私、一度そんな感じで誘拐されかけたことがあるの」
「へー……はあっ!?」
 あまりにさらっと、まるで今朝何を食べたかを思い出して紹介するかのようなテンションで言うもんだから、危うくこっちも聞き流すとこだった。
 そして、理解したときにはロビンが落ち着いてる分、更に驚いた。
「いや、えっ、誘拐って……」
 大丈夫だったの? あ、そうじゃなきゃ今ここにいないか。
 私の気も知らず、ロビンはのん気に語りだす。
「小学3年生の頃だったかしら、どうしても欲しい本があったのだけれど、高価でとても手が届くようなものではなかったのよ。通学路の書店でそれを見つけても、毎日指をくわえてただ本の背を見ていることしかできなくて。結論から言うと、誘拐犯はその書店の店主でね、ある日私が一人で下校しているところに話しかけてきて、私もそういうわけで彼を知っていたから、特別に本の中身を見せてあげると言われて疑いもせずについていったら、いきなり口を塞がれて……でね、ここからが笑い話なの」
「え?」
「私を連れ去るための車を、すぐそばに停めてあったみたいなんだけど、いざ私を抱えてその路地へ入ったら、なぜかもうパトカーが来ていたの。当時はわかっていなかったけれど、あれ、駐禁を切られていたのよね。そこですぐお巡りさんに見つかって……現行犯逮捕。ふふっ、おかしいでしょ?」
 ロビン本人は至って普通に笑ってるから、一応そうだねと頷いたけど……うーん。何なのかな、このむかむかする感じ。
 だってその誘拐って、絶対……ほら、わいせつな行為? みだらな行為? そういう目的としか思えないもの。
 きっと店で見たロビンを気に入ってたのよ、ロリコン野郎め。
「でもさあ、まあさすがに今はもうそんなのにホイホイついてくこともないだろうけど、例えばもし私がそいつみたいな悪者だったらどうするのよ」
「ナミちゃんが?」
「だってロビン、私につられて電車降りてまでついてきたんでしょ?」
「ええ」
「あのあと私はまんまとロビンをうちに連れ込めちゃったわけだし、イタズラされてたかもしれないわよ?」
 からかい半分で笑いながらそう言って、隣を歩くロビンの顔を覗き込む。
 ロビンは少しだけ目を見開いてきょとんとした顔。
 と思ったら、
「それは……素敵ね」
 いや、あの、うっとりしないでください。

 
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