ベッドの中で、これまでに交わしたロビンとの会話を振り返ってみた。
 基本的に、ロビンは私の質問には何でも答えてくれた。
 けれど、ロビンから私に何かを尋ねてくることはなかった。
 人と話すのが苦手なのかと思ってこっちから積極的に質問を繰り返したけど、途中でロビンの性格と今の状況を考えて、ピンときたことがあった。
 もしかしたら、私がロビンを質問攻めにしているのは自分のことを警戒しているからだとロビンは考えていて、ロビンから私に質問をし返さないのはそのことに気を遣っての対応なんだろうかって。
 それを指摘してみると、口では「そんなことないわ」と答えていたけど、それからは私の顔色を窺いつつたまーにロビンも質問を返してくるようになったから、やっぱり図星だったんだと思う。

「あ、おはよう、ナミちゃん」
「……うん、おはよ」
 私は朝には滅法弱い。
 今日は寝るのが遅かっただけ起きたのも普段よりは遅い時間なんだと思うけど、それでもキツい。
 まぶしい。
 目が勝手に閉じちゃう。
 まだ眠い。
「ごめんなさい、黙って洗面所使わせてもらったわ」
「ああ……うん、気にしないで……」
 うっすらとだけどどうにか瞼をこじ開けて、上半身を起こす。
 ロビンはもう、上はブラウスに下はスラックスという格好で、テーブルのそばにいた。
 その手には一冊の本。文庫本かな。
 私のじゃないし、読書が趣味だと言っていたから、多分持ち歩いてるものなんだろう。
 ロビンは私と目が合うと、くすりと笑って言った。
「ナミちゃんすごく眠そうね。起こしてあげるから、もう少し眠ったら? 何時頃がいいかしら」
「……ん……じゃ、あと1時間……あ、コーヒーとか飲みたかったら適当にキッチン使っていいよ」
「ええ、ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみ……」
 そのままばたんと後ろへ倒れて、目をつむる。
 時折ロビンがページをめくる音だけがかすかに聞こえる中で、私は再び眠りに落ちた。

「ナミちゃん、ナミちゃん、起きて」
 さらりと流れて垂れ下がった黒い髪。
 ふわっと香るシャンプーは私と同じはずなのに、なんでこんなにいい匂いに感じるんだろう。
 上から覗き込むようにしているから、逆光で顔はよく見えない。
 けれど声が優しいから、その表情は自分で補える。
 昨日会ったばっかの人の、それも笑っている顔を、こんなに鮮明に思い出せることに我ながらびっくり。
 急に視界に光がいっぱいになる。
 ロビンがしゃがんだからだ。
 私は仰向けの姿勢だったけど、ごろんと寝返りを打ってロビンのほうを向いた。
 するとロビンは、私が思い浮かべてたのよりもっと穏やかな顔でそこにいた。
「おはよう」
 ほとんど同じ目線で、ロビンが微笑んで言う。
 うわ、なんかこれ、すっごいいい寝覚め。
 まぶしい。
 太陽じゃなくて、ロビンの笑顔が。
「……おはよう、ロビン」
 なんてぞっとするようなサムい思考回路をしてるのは……まあ、まだ寝ぼけてるのよね。うん、きっとそう。

 
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