「ナミちゃん、やっぱりこれは運命だと思うの」
「……ええっと」
 また何か言い出したよ、この人。
 私がお風呂に入っている間、どうもロビンさんはずっと同じとこに座っていたようだったから、自分のぶんも兼ねて飲み物を出してあげたとこなんだけど。
 とりあえず、グラスとペットボトルをローテーブルに置いて、私も腰を下ろす。
 ロビンさんが変なことを言っている。
 ということは、私のバスタイムを利用して、何かまた舞い上がるような新事実を見つけたのだろうか。
 うきうき、というのが、今のロビンさんを表現するのに一番適切な言葉だと思う。
 視線で続きを促すと、やりかけの課題と一緒にテーブルの端によけておいた大学支給のスケジュール帳を示して、ロビンさんが一言。
「私も海楼女子大に通っていたのよ」
「えっ、ほんとに?」
 これには素直に驚いた。
 だって、うちの大学はいわゆる単科大学というやつで、規模はかなり小さい。しかも女子大。
 その上それほど歴史ある学校でもないから、こんなふうに全く偶然卒業生に出会えるなんて、そうそう無い機会だろう。
 なるほど確かにロビンさんが運命を感じるのも無理は……ない、のかな?
 まあまあまあ。
 とりあえず飲みなよ、とグラスを勧める。水だけど。
「ロビンさん今いくつ? いつ卒業したの?」
「28だから……卒業は6年前ね」
 28か。
 声は落ち着いてるけど、見た目からもっと若いもんだと思ってた。
「へー、それじゃあほとんど学校できたばっかのころだ」
「そうね。サウロ先生とか、今もいらっしゃるのかしら」
「あ、知ってる知ってる! 私、先生の講義取ってるわよ」
「あら、そうなの?」

 思わぬ偶然に話が弾んで、小一時間は経った頃。
 ちょくちょくロビンさんの瞬きが重くなってるのに気がついた。
 それもそのはず、時計を見ると午前3時にもなろうかという時間だ。
 ロビンさんは、普段あまり夜更かししないほうなのかな。
 とりあえず今日はもう寝ようかということに。
 あいにく客用布団なんて気の利いたものはないので、狭いけど二人でベッドに寝るしかない。
 ロビンさんはお風呂の時に歯磨きを済ませておいたらしいから、ちょっと待っててもらって私も流しで歯を磨く。
「ところで、ナミちゃんは私に敬語を使わないのに、名前を呼ぶときにはさん付けなのね」
 いきなりそんなこと言うもんだから、歯ブラシをくわえたままで振り向いてしまった。
「あ、ごめ……すいません」
 そういやそうだ。
 いくらロビンさんが不審者寸前の人とはいえ、年上は年上なのよね。
 敬語で謝ってみたんだけど、ロビンさんは不服そうな顔。
「そうじゃなくて、ロビン、って呼んで?」
 あっ、そっちね。
「……ロビンがいいなら、そうするけど」
 おずおずと、呼んでみる。
 ロビンはにっこり笑って頷いた。
 ……はい。
 重ね重ね言うようですが、私たちは数時間前が初対面です。

 
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