夢喰 | ナノ
68

柔らかそうな羽にびっちりと囲まれたそいつらは、しかし可愛いげなど決してない、鋭い猛禽の目をしている。

明日、地球を発つ天人だ。
噂によれば母国は人身売買のシンジゲートになっていて、様々な星の民が奴隷として溢れかえっているとか。証拠がなくとも火の無いところに煙は立たず。この星でも良からぬことを企んでいると考えるのが自然だろう。だが、幕府も秘密裏に目をつけていたというのに決定的な証拠が得られないままやつらは帰還するのだという。バカンス、等という名目で、表面上なにもせずに。
そんな天人のガサ入れ。
今回の真選組の仕事にはそんな経緯があった。

「いやあわざわざすみませんね。お忙しい中」
「いえ。仕事ですから」
「局長殿など、おらんようですが」
「ああ、局長は船の方の担当でして」

細い目を更に細めて笑う天人の一人…恐らく代表と思わしき男は、意外にも丁寧に真選組を迎え入れた。
後ろ暗いところは何もないとでも言いたげに無駄に堂々とした態度で。
そんな腑に落ちない態度をとる天人に軽く会釈をしながら返した山崎は気が気ではなかった。
この調査隊を率いている土方が、今にも爆発しないかと。

「こっちが星に持って帰る土産でね。いやあいい買い物ができた」
「ずいぶん大きいですね」
「ホホホ殆どが羽毛布団ですからホホホホホ」
(よりによって羽毛布団!?わざわざ地球まできて買うもんじゃねえよ絶対!!てめえらの身体からちぎればいいだろうが!!)「へ、へえ。それはよかった」

盛大に突っ込みつつも愛想笑いをなんとか返し、山崎は綿密に羽毛布団を調べる。…が、羽毛布団はどこまで行っても羽毛布団。なにも怪しいところは出てこない。それどころかこれは超高級な羽毛布団ではなかろうか。指はどこまでも深く食い込み、手を離すとすぐにもとに戻る。弾力が冬に自分が使うそれと5倍くらい違う気がする。

「た、確かにこれは良い布団ですね…」
「ホホホホホ」

そんな会話を聞いて静かに土方はトランシーバーを起動させた。しばらくの雑音のあと、応答があったことを確認してから報告を告げる。

「近藤さん、総悟。こっちはなにも問題ねえ。こっちはな。」
『そうか…こっちもだ。良かったじゃないな何もなくて。双方にとって願ったりかなったりだろ』

そう、近藤は人の良い笑みを浮かべているに違いないと思えるような返事をしている。「なあ総悟」などと聞こえることから隣にいる沖田にでも話しかけているようだ。すると曖昧な返事とゴホゴホという幾つかの咳。

「…なんだ総悟。風邪か?」

勤務の間の他愛ない会話、と言うところだろうか。しかしそれにしては若干、他人行儀でほんの少しの焦りを感じさせる、そんな口調。

『埃っぽくて喉の調子が悪くてね。つーか、お役人の早とちりだったってだけでしょう。何をそんなにかっかしてんでィ』
「………………!!テメエ」

沖田の言っていることは至極当然だった。別に忙しいことが誇れるような職種ではないのだから。
しかしそれを聞いた土方は、まるで堪えていたものが噴出するような勢いで喰いついたのだ。

『まっ、これで一件落着ってことでさァ』

そんな上司を飄々とかわす部下。
近藤は神妙な面持ちでそんな会話を聞いていた。

トランシーバー口で綺麗なボーイソプラノを発するその男は、沖田ではなかった。随分と線が細い。
ともすれば女に────いや、実際にその人物は、女だった。

「それじゃあ土方さん。よろしく頼みまさァ」

血に濡れた事など一切意に介さずに、どこまでも無表情に無感動に無関心に無機質に、今井信女はそう告げたのだった。

[*←] [→#]

[ back to top ]