私が待ち合わせの店の前に行くと既に佐々木さんは待っていた。
メールしてたみたいでこっちから声をかけるまで気づかなかった。
店に入って、注文する。
やっぱり、最近口数が少ない。目に見えて少ない。
それに少し疲れているように見えた。
「宝生さん、食べないんですか?」
「あ、いや、食べる食べる」
「…」
「……」
無言。
すまいるでバイトした日から気まずさでそれを深く追求できない。
なにを気にしてるんだ。見廻組のさくらんぼ男子にはこんな気使わなかったのに。
「そういえば、この間の質問に答えてませんでしたね」
ふいにぽつりと佐々木さんは呟いた。
その呟きは小さかったが沈黙を破るには十分で、直接的だった。
そしてそれに関しちゃ答えなかったのは私の気もするけども。
「別に良いけど、私の出生とか話さないからね」
「構いません。というか、ただの愚痴です」
「…え」
佐々木さんがそんなこと言うなんて、という気持ちと、そりゃ色々あるよなァ、という思いが混ざり合った。
「エリートだからしかたないんですけどね。なにせエリートですから。しかし、最近はどうにも多忙でして」
「うん」
「気まぐれをおこしてあんな所に行くくらいには」
「…うん」
そうか。あれは純粋に気分転換のつもりだったのか。
調査と、嫌みでも言いにきたのかと思ってた。
案外佐々木さんも人間みたいで、ちょっと安心する。
「がんばるのはいいけど身体だけは壊さないようにね。家の人とかも心配するでしょ」
もし、近藤さんがそんな事になったらきっとみんなもの凄いだろうね。
…沖田くんがまじめに仕事してくれるならそれもありかもなんて……一瞬だけ頭をかすめたのは内緒だ。
「"伝統ある佐々木家の存続"ではなく、私個人を心配してくれる物好きは貴女くらいのものですよ」
「…そう」
今までは弱音なんて吐かなかったのに。
たった1ヶ月で私を、この人を。
何がいったいこんな風に変えてしまったのか。
「私は真選組だからさ、仕事のことは深く聞けないし力にもなれないけどねェ。一緒にお昼食べて、腹さぐり合って、嫌み言い合って、愚痴聞くくらいならできるからさ」
少なくとも、敵方の大将にこんなことが言えるくらいには、私は変わったのだろう。
「凡人の貴女には荷が重いかもしれませんが」
「世の中エリートだけで回ってると思わないでくれる?」
口をつく悪態。
1ヶ月前ならここで帰ってくる言葉はきっと『小さな歯車なりに奔走して回っているんですね』とかそんなとこ。
「全く貴女は…不思議な人だ」
「佐々木さんには負けるかな」
どこか心地よい静寂が訪れた。
周りの喧騒が遠い。
そんな何とも言えないふわふわしたような気分で屯所に帰り、久しぶりに機嫌良く仕事を終える頃。
直属の上司――もとい腐れ外道に山崎の純情が見事に踏みにじられ、お見合いにまで発展したことを知った私が小さな歯車なりに奔走するのは、また別の話である。