副長室を後にした私は一番隊の執務室に向かってる。
すると素振りをしてる山崎を見つけた。
「おかえりー山崎ー……!?」
ただ、素振りはいつものラケットじゃなくて……
「刀なんか振ってなにしてんの…?」
なんと、刀を振っている。
いや、いいんだけど!
ミントンラケットより全然いいんだけど!!
でも振ってるのは刀なのにフォームはバドミントンだからか違和感が拭えずにモヤモヤと気持ち悪い。
しかも言われて気づいたのか、本人は「あ」と間抜けな声を上げている。
「は、張り込みお疲れさん。グチくらいなら聞くよ?」
「智香ちゃん………!!」
瞬間、山崎の涙腺は決壊したようで。
この間はまだ仕事中だから話せないことも多かったらしい。
愚痴と、それから噂のラブレターを送った相手のこととか。
「俺の代わりなんかいくらでもいるって、ヤケになってて…っ」
「うんうん」
「彼女の言葉に励まされて…っ」
「うん」
結局、午前中はろくな仕事ができなかったが、見廻組に住んで以来プライベートな時間も仕事に当ててるのだから大目に見てほしい。
只でさえ隊のトップがサボり常習犯なんだし。これくらいは。
「がんばれ山崎!あんたすごい良い人だから自信持ちなよ!(地味だけど)」
「智香ちゃん?( )になにを隠したの?」
「やだな山崎。私なりの気遣いだよ。地味だなんてそんな」
「どーせ地味だよォォ!」
「いやいや大丈夫だって!女子はギャップなるものにときめくらしいから!」
「ギャップ?ギャップってなに?ブランド?どうせ俺は地味で無難にまとまった男だよ」
「…………ほら、真選組ってだけあっていい身体してるでしょ!一般人とは違うでしょ!」
「なに?その間はなにィィ!?」
そう。山崎は見た目は一般人の通行人A…もといそこいらのモブと変わらないが、それでも真選組の監察だ。
間は、置いとくとして。
「副長の腹筋と山崎の腹筋なら山崎のがギャップある!イケメンの腹筋が割れてたところでそんなに驚かないけど、山崎なら確実に驚くね、間違いない!」
「ねえ、さっきから思ってたけど背中押してるようでけなしてるよね」
「そんなことな…い!」
「だからァ!!なんなの!!さっきからなんなのその間はァァ!!」
くだらないやりとり。
帰ってきた日常。
安堵する私。
そう。こんなもんだ、私の毎日は。
そうこうしていると食堂に向かう隊士の足音が聞こえてきた。
どうやらもう昼食の時間のようだ。
「わ、もうこんな時間か。行か……」
口からでた言葉に思考が停止した。
私は今、なにを言おうとした?
日常は帰ってきたのだ。後は私が元に戻すだけ。
だから、もう、あの人とお昼を一緒に食べる理由なんて……
「行っといでよ」
「山崎…?」
「佐々木殿と約束してるんだろ?
俺を励まして応援してくれたんだからさ、俺も応援する。気を使わないでよ」
「あ、あのさ…っ」
なんか誤解してない?と聞く前に、ケータイが鳴った。
やっぱりそれは佐々木さんからで、今日食べる予定のお店や待ち合わせの内容だった。
「じゃあね、行ってらっしゃい」そういって笑う山崎。
「あんたもウジウジしてないで声の一つでもかけてきな!」
一点に集まる熱に任せながらそう言って屯所を飛び出した。