「カレーは水分と油分を含んだ複合汚れですからね。早いとこ染み取っとかないと」
ティッシュで水分を吸い取り、ハンカチを敷いて裏返した上着をのせ、ティッシュに薄めた洗剤をつけて、汚れを裏面からたたいてハンカチに移す。
よし!落ちた。
後はドライヤーで乾かす。
「これだけで綺麗に落ちるんですね」
感心したような佐々木さん。
「ずいぶん手慣れてますね」
「あ、毎日マヨネーズの染み抜きしてるからねェ」
真選組と似たような造りの隊服だけあって今の彼はベスト姿だ。
エリートなんて頭でっかちでひょろいと思ってたけど、流石というかなんというか長身もあって逞しい。
「黒い隊服でも大変ですね」
「オマケにヤニ臭いんで大変だよ…」
「………」
しばし佐々木さんが沈黙した事で気がついた。
敬語でもないし笑顔でもない。
今の私、素です。
……………
……………………
「やっと化けの皮が剥がれましたね」
「しまったァァァァァ!!」
忘れていた!!
こいつは佐々木くんをゴミ扱いして副長を圧倒して万事屋さんにギザウザスといわしめる男ォォォ!!
エリートの中のエリート、佐々木異三郎!
顔が見えないメールの方が警戒できてた。こいつのペースにハマってたんだ…!
「屯所の皆さんには黙っていてあげますよ。その方が色々と嗅ぎまわりやすいでしょう、女狐」
「…エリートも大したこと無いですね。女狐の嘘一つ見破れなんだから」
こうなりゃやけくそだ。
まけじと嫌みを言い返してやった。
「隙あらば見廻り組を失脚させるつもりですか。これは怖い」
「そっちこそ、親交がどーのっつっときながら傘下におこうとか画策してんじゃないの」
すると彼はフッ、と口の端で笑って
「お取り潰しになるより賢い選択ですよ」
そういい残して店員に礼を言って先に歩き出した。
勘定を済ませようとすると佐々木さんが既に私の分まで済ませていた。
「…たかった覚えは無いんだけどねェ」
「さっきのお礼です。おかげで綺麗になりましたよ。宝生さん」
これでチャラだと…?
余計に貸されたようなもんだよ。
しばらくケータイをいじっていた佐々木さんはどこからともなく現れた黒塗りの隊車に、白を翻しながら乗り込んだ。