男なんてのは馬鹿ばかりだ。
そうじゃなきゃ今まで私が生きてこれたはずがない。
なのに、私は本当に佐々木異三郎って男が心底理解できなかった。
「やはり仕事疲れにはカレーうどんですね」
「そうなんですかー」
適当に笑顔で返す、私。
本当になんでこんな事になってるのか。
お昼は何時もなら山崎とラーメン食べてんだけど、残念ながら彼は張り込み中。
サボって官庁の辺りを歩いていてたまにはうどんでも食べるかな、とのれんをくぐったのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
「エリートでもうどんとか食べるんですねェ」
「人間ですからね。うどんくらい食べますよ」
我ながら馬鹿な会話をしてると思う。
「でも、美味しいですね。ここのうどん」
ずずっ、と麺をすすった。
頼んだ月見うどんの汁に溶けた卵がまたなんとも言えない。
「また来ようかな」
「そうですか。なら、明日もお昼ご一緒しませんか」
…横で無表情でカレーうどんをすするコイツは本当に、エリートなんだろうか?
佐々木くんをゴミのように扱って
副長をなんなく追い詰めた
あの男本人なんだろうか。
そんな思いが募る。
「私はいいですよ。ちょうど一緒に食べるツレが出張中なもんで」
これは真実だ。
しかし、始めは下っ端から内情を探り出そうと思ってたのにいきなりこんな大物がかかるとは。
「あ」
珍しく慌てた声を出したと思ったら、白い制服に見事に薄茶色の染みができていた。
カレーうどんが跳ねたらしい。
「白い服でカレーうどんなんか食べるからですよ」
「食べたかったんですよ」
(ガキか)
「エリートです」
「えっ」
「声に出てました」
…なんか頭痛くなってきた…。
見つけた店員さんが奥の流し使っていーよと言ってくれる。
どーやらなかなかの常連らしい。
「上着貸してください」
私はそう言うと半ば彼から上着を引っ剥がして店員さんに招かれるまま廊下を進んだ。