04 「はあぁぁ………」 「どうしました?シン」 シンの気分によって公務が捗らないのはいつもの事だが、何だか今日は少し違う気がして書類を持ったままゆっくりとシンの傍へと足を向ける。 「それがな……聞いてくれ、ジャーファル。 ナディヤ に男が出来たかも知れん」 「はぁ…………ええっ!」 ドキッとして書類を落とす。 「な?ショックだろう…?」 「そ、そそそうですね。それで、御相手は……?」 「それは解らん。だが、さっき触った髪の毛先は僅かに濡れていた。 ナディヤ は、夏以外は朝に風呂に入ることはない。それに、首筋にな……」 「首筋に……?」 「相手が残したと思われる痕が残っていた」 「………、な」 (なんて事をしたんだ私はっ!!) 「はぁ……ショックだ。俺が酒の場にいて、不在の時にだぞ…?」 「……そうですね」 「ジャーファル、お前も昨日は徹夜後の酒で疲れて眠ってしまったのだろう…?」 じっと自分を見てくる目が、何かを探るような色をしている。 そこでやっとジャーファルは、シンドバッドが自分に相談事を持ちかけているように見せてかけて実は遠まわしに尋問をかけていることに気付いた。 自覚した途端にその狂気を肌に感じ、冷や汗が溢れた。 「……失礼ながらシン。実は私は昨夜のこと、何一つ覚え」 「そうだろうそうだろう!!だとしたら、相手は宮中を自由に出入りできる人間で、八人将以外の人間になるな。 酒の場には、お前以外の八人将が揃っていたからな」 「……そ、そのようですね」 確信を得た様に一気に表情を緩めて安心したように推理を始めるシン。 言えるわけがない。 相手はこの私だと。 シンは、 ナディヤのことをたった一人の家族として溺愛している。 それはもう、 ナディヤに対して淡い好意を抱いた文官や武官が居るらしいというのを小耳に挟んだ瞬間ひっそりと配置換えをさせたり、それこそアピールが積極的な者に対しては八人将を使ってあの手この手で邪魔をしてきた。 ナディヤにプロポーズをしてそのまま連れ去ろうとした商人が、身ぐるみを剥がされて小舟であの危険な海を一晩漂流させられたのは記憶に新しい。 勿論そのあとはしっかり回収して国に戻る船に乗せてやったが、一晩で彼は恐怖のために一気に老け込んで人相が変わってしまっていた。 …………シンにバレたら、何をされるか分からない。 「ジャーファル。お前にも、 ナディヤ の相手が誰なのか探すのを手伝ってほしい。良いだろう?」 「……仰せのままに」 ← → ×
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