12 シンが帰国してから三日の間、溜まっていた政務を片付けた。 夜も更けて静まりかえっている王宮の中を、フラつく足で自室まで向かう。 間接照明に照らされている回廊の先、私の部屋の前に立っていたナディヤを見たとき、思わず天からの迎えが来たかと思ったほど肩の力が抜けて足取りが軽くなる。 「お疲れ様、ジャーファル」 「ありがとうナディヤ。どうしたんです、こんな夜更けに?」 「ジャーファル……話が、あるんだ」 ”兄様にもバレちゃいそうだし、もう終わりにしよう” 「……え……?」 「じゃあ、そういうことだから」 「ちょ、ちょっと待ちなさい」 素っ気ない態度でそう言い放って去って行こうとする背中を引き留めようと、触ろうとした手を避けられる。 「飽きちゃったんだよね」 「飽き…た…?」 「うん。だってさ、ジャーファルはいつも仕事の事ばっかり。……そういう所も好きだったけれど、さすがに飽きて来ちゃった。 ごめんね?」 口角をつり上げ、ニッコリと満面の笑顔を向けてくるナディヤに動揺が隠せず、足下がグラつく。 つい先日まで自分に向けて愛を囁いていたのと同じ唇で、今度は拒絶の言葉を紡ぐ事が信じられず、しばらく言葉を無くす。 こんな時どうすればいいのか。徹夜の頭では良い考えが湧いてくる事はなく、苦し紛れに心の中に膨れ上がってきたのは明確な、そしてやり場のない『怒り』だった。 「…ふざけるなッ!」 緊張で掠れた声から吐き出した声に、ナディヤの肩が一瞬震える。 「人の事、散々振り回しておいて、飽きたらポイですか」 「じゃ…ジャーファル?」 「貴女は本当にシンの妹ですね。傍若無人っぽりは、シン譲りです。 話し合いをする余地も与えて下さらない」 「……」 「なら私も………貴女との会話は要りません」 吐き捨てるようにそういうと、目を開いて呆然としているナディヤの腕を引いて自室の中に引きずり込む。 珍しく動揺し、腕を振り払おうと抵抗しているものの、男である私の腕力に叶うわけがない。 何もない簡素な部屋の奥はベッドしか無く、片手で寝台の上へ投げる。 紫色の髪が白いシーツに乱雑に広がり、身をよじっているナディヤの上に馬乗りになった。 「じゃ、ふぁ…っ!う、あ…む、んんーっ」 「っは」 深く口づけながら官服に手を差し入れ、内股を探ってぬかるんでいる処に指を這わせる。 「もう、濡れていますよ…?」 「っちがう…!」 「何が違うんですか? そう言えば貴女……結構激しいのが、お好きでしたね?」 両腕を袖から出し、使い込んで縄が滑らかになっている縄標を掴む。 そして、先程の彼女の笑顔を精一杯真似しながら、にこりと微笑む。 「縛るのはお好きですか?」 ← → ×
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