MAGI | ナノ
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「ん…じゃ……、ふぁ……っう」


一晩中、気絶しては交わっての繰り返し。
腕ごと体を縛られた事に異議を唱えて抵抗していたナディヤも、数回達する頃には無抵抗になった為、紐から解放する。


白い柔肌にくっきりと残った縄の痕を見て、自分の中の征服欲が満たされた。

しかし、よく分からないドス黒い感情は収まることなく、時折意識を飛ばしてぐったりするナディヤを更に追い立てしまう。

私の体が普通の人間とは逸脱しているせいなのか、抱いても抱いても足りない位で、ひたすら貪るように肌を合わせ続けた。



空が明らんでくる頃になってから、やっと今までの疲労がドッと押し寄せてベッドへと身を投げた。


(朝議に……出ないと…)


徹夜続きで霞がかかった意識の中、心の中で一人ごちる。
でも、情事の後の心地の良い感覚を手放して起きる気にもなれず、視線だけを出入り口の扉へと向ける。

だが、そこがゆっくりと開いて女官が顔を出した時、「まずい」と分かっていても動く気にはなれなかった。


…ああ、やってしまった。




「ジャーファル様、朝食の準備が……!?、し、失礼いたしましたっ!!」


真っ赤な顔で足早に去って行く女官を見送ると、隣で微かにナディヤが身じろぐ。

艶のある紫髪が白い波の上に揺蕩い、豊満な肢体に絡む。


前にも見た光景だな、と妙に冷静な頭で彼女を見下ろし、ボーッと私を見る瞳の前に全裸のまま大人しく平伏した。



「じゃ……、ふぁる……?」
「すみません、でした。婦女暴行なんて、あるまじき行為です。
如何様な処罰も受けましょう」
「いいよ。……ジャーファルに乱暴にされるの、嫌いじゃないの」


むしろ、イイ…と頬を染めながら呟いていた気がしたが、気のせいだろうか。

体中に情痕と縄の痕を残しながら大きく伸びをするナディヤの姿に、やっと罪悪感が顔を出す。

王への忠誠心や色々なものをかなぐり捨て、酷い事をしてしまった。という想いが今更になって湧き上がった。


「すみません……手荒い事をしてしまいました」
「うん、ちょっとだけ痛かったかも」
「申し訳ありません……罰は何でも受けます。むしろ、受けさせてください」

「そう……もし、本当に罰を受けたいのなら一つ聞かせて」
「はい、何でしょう?」
「私の事、どう思ってる?」


怒りでも悲しみでもない普通な表情で、純粋な疑問を投げかけてくるナディヤ。
そんな彼女の前に全裸で平伏する男なんて、なんて惨めなのだろうか。


なのに、対するナディヤは、同じく何も身に纏っていないのに堂々としている。


一糸まとわずに私を見つめる瞳を前に、つい俯いて視線を下げた。



「……私は、前から貴女のことを好ましいと、思っていました。
シンドリアはまだ新興国。やらなければいけないことは沢山或る。
シンや私を、懸命に支えようとしてくれる貴女には惹かれる気持ちがありました」
「……」
「ですが、私は王に仕える身である政務官です。
そんな私が、貴女に懸念する訳にもいきません。なので…」
「うん、もう判った。……さっきは飽きたなんて言ってごめんなさい。
嘘よ。私もジャーファルの事好き。好きすぎて、辛くて、止めようって勝手に思ったの」


だから、嫌な女になって嫌われようかと思ったんだ。
寂しげな声につられるように顔を上げると、「大好きな事に変わりはないのにね」と何処か吹っ切れた顔で微笑むナディヤに、思わず照れてしまって頬を隠す。


結局、彼女には敵わない。


そう確信し、心中で白旗を揚げると此方に身を寄せてきたナディヤを抱きしめ、肩口に顔を埋める。

甘えるように私の首筋に口づけてくるのを大人しく受けていると、満足そうに喉で笑ったナディヤが少し体を離す。

でも、少し離れたくらいでは豊満な胸は私の体にくっついたままだ。
男としての煩悩を必死に抑えていると、にこりと悪戯っぽく微笑まれる。



「じゃあ罰として………一緒に、お兄様に怒られてくれる?」
「ええ、勿論です」
「その時に、二人に話したいことがあるんだ。それと……ひとつ、お願いしたいことがあるの」
「何でしょう?」



キス、して?


「どうして今更?私は貴女を」
「うん、分かってる。でも、だからこそ……今、キスして欲しいの。
好きよ、ジャーファル。好きって言って、キスして?」


私の手に指を絡め、恋人つなぎのようにしながらじっと見上げられる。
今までの余裕綽綽な顔から、一気に捨てられた子犬のような懇願する顔になった。


どうしてそんな不安そうな顔をするのか分からないが、その言葉に対する返答を今の私は堂々と伝えられる。



「………愛してます、ナディヤ」







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