第二話・雑談と混乱と疾走・



「・・・ということがあったんだ」

「へー!テュリって凄いね」

「・・・もう大丈夫なん、ですか?」

「なんとかな、我ながら回復の早さに驚いたよ」

「修行の賜物だね!」


朝食の場
シュネィヴァは今朝の出来事をマリカとチィリカに話していた

昨晩は結局、船滞在の話に結論がつかず、どうせだから泊まったら?とのお達しに様子見に一日ならと三人共世話になった
因みにマリカとチィリカの保護者への連絡はシュネィヴァが「ティルータ」の船員を使いっ走らせ、そのまま今に至り三人は今食堂にいる

今朝の話を楽しく聞いてくれるマリカと気遣ってくれるチィリカ二人の反応を見て朝の災難もこうしてネタになったからいいやと不幸を昇華してシュネィヴァは朝食を一口食べた

姫祇が話した通りの魚、しかもさりげなく味を引き立てる工夫付き

そんなバンエルティア号の食事はなんでもパニールが担当しているらしい
お手伝いに金髪の女性が二人いるがこの大所帯、準備も大変な食事を朝昼晩

カノンノの育て親と聞いてはいたがここまで凄いとは

グランマっていいなぁ・・・


物思いにふけつつシュネィヴァはまた一口を頬張った




「さぁ、姫?忘れ物はありませんか?」

「はい!へーきです、ありがとうミント」


「あ、おおーい姫祇ー!」

朝食後
三人でバンエルティア号を歩き回ってたら白い法衣服に身を包んだ女性と姫祇がいたので声をかけてみた


「シュネィヴァさん!マリカさん!チィリカさん!」


パタパタと足音を立てて嬉しそうによってくる姫祇
するとマリカが「あ、」と声をあげる


「ええっと、いつの間にいつもの“姫祇”になったの?」

チラチラと頭の上で揺れる見慣れたポニーテール

早朝まで“若木”としてはしゃぎ回っていた少年は現在自分達のクラスメートの少女“姫祇”になっていた

「うむぅ?姫はいつでも姫なんですよ?」

「どゆこと?」

「だから姫は姫のままずっと姫なんです」

「じゃあ若木っていうのは?ずっと姫なら若木はなんなの?」

「若も若でずぅっと若です」

「????もっと意味がわかんない」

聞いていてシュネィヴァも頭を捻る
見ればチィリカも僅かに首を傾げていた

姫は姫のままで若も若のまま?
それはつまり自身が姫祇であると同時に若木でもあると言っているのか?
だけど昨日若木は自分を姫ではなく若だということを強く訴えていた
つまり姫祇は姫祇で若木は若木であると
なのに今の姫祇の言葉はそれと異なるもので・・・


「・・・あの、皆さん大丈夫ですか?」

半ば思考がパンクしかけていたところを女性が声をかけてきた
その表情には心配の色が濃く出ている


「いや、意味をつかみ損ねてて・・・」

「シュネィヴァさん?マリカさんも、私そんなに変なこと言ってますか?」

「・・・変じゃありませんが、噛み合いません」

「??どういうことですかチィリカさん」


姫祇が首を忙しなく動かして全員の顔を見る
が、三人共に頭が混乱していて苦い顔
挙げ句の果てに少女は背後の女性を見る


「ねぇミント・・・私は変なこと言ってた?」

「そんなことはないと思います・・・皆さんは何を悩んでいらっしゃるんですか?」

「え、あ・・・昨日若木が言ってたことと噛み合わなくてな・・・」


僅かな言葉を聞いてミントと呼ばれた女性はあぁと合点がいったという様子で軽く頷く

伝わったのか?


「そういうことでしたか」

え、本当に伝わったの?

「そうですね、簡単に説明しますと姫と若は確かに同一人物なのですが多少、考え方に違いがあるんですよ」

「違い?」

「はい」

にこりと微笑むミント
その瞬間、何故か天使を垣間見た気がしたのは気のせいか
とても笑顔が神々しかった


「・・・つまり、姫祇は姫祇で・・・若木は若木で自己区別がある・・・と、いう解釈で・・・いいんですかね?」

「まぁそういうことだよな」

「むぅ、わたしはまだちょっと分かんない・・・」

ミントのお陰で一応納得できてシュネィヴァとチィリカは頷き合う
マリカは一人未だ頭を抱えているが


「うーんと・・・自分のことを色々言われると恥ずかしいねぇ・・・」

本当に恥ずかしいのかもじもじする姫祇の顔は仄かに赤く、口元には嬉しそうな笑みを浮かべている
その様子を見たミントもまた微笑ましい姿に口を緩めた


「さぁ姫、そろそろ学校に行きましょうか?」

「「「あっ!」」」

ミントの呼び掛けに、しかし三人が聞いた途端に眼を見開いて固まった


「皆どうしたの?」

「・・・マリカ、昨日あのまま鞄をどうした?」

「・・・わたしは確か船に来る前に拾って、拾って・・・」

「・・・チィリカは?」

「・・・・・・」


「・・・?シュネィヴァさん?」


心配そうな姫祇に、三人は言葉を返すこともせず

シュネィヴァ・マリカ・チィリカは自分たちの荷物を探すために散り散りに走り出した

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