第七話・一瞬の逆転・




「じゃあチィリカ、頼んだぞ」

「・・・(こくん)」

頷いて校舎内に姿が消える

二人と違ってチィリカは敵から離れなければ危ない
その為校内の人間の避難先導をしつつ使えたら魔法で援護してもらうことになった

シュネィヴァ・マリカは姫祇を守りつつ相手を撹乱させる作戦で時間を稼ぐことにした


「それじゃあ・・・行くぞマリカ」

「了解」

二人とも自身の得物を構える

相手はでかいし、甲羅はかなりの硬度を持つだろう
目標はあくまで時間稼ぎ

しかし正直いって気が滅入る


「えー、えー、なんで二人とも行かないの〜?」
「姫、切り札は最後まで見せないのが定石だぜ(キラッ)」
「じゃなくて僕らはあまり干渉しちゃいけないからね、姫が危ない時しか手伝えないんだよ」
「ぶーぶー」
「我慢して、姫」


繰り広げられる子供と保護者の会話が不安を煽ってくる
言い出しっぺがこれで大丈夫何だろうか?

とにかく気合いを入れて相手を見据える

距離は数十メートル
走って二、三十秒で到達する
足で軽く地面を蹴ってマリカに合図、そして――

ダンッ!!


駆け出す
脇目もふらずただ一直線に走る、走る

暫くして向こうがこちらに気づき、鋏を振り上げ叩き潰そうとしてくる

風が頬をかすめる
そして

「今だっ!!」

出来る限りの声で叫んだ


タンッ!!

シュネィヴァの背後に隠れていたマリカが思い切り地面を蹴って飛び上がる

敵が二手に別れ動揺したのか鋏を降り下ろす腕が一瞬遅れる

その間にシュネィヴァは蟹の懐に潜り込み、マリカは鋏を器用に駆け上がった

マリカが無事に蟹の甲羅に登ったのを横目で確認しつつ剣を握る腕に力を込める

相手からすれば自分の武器など驚異でもなんでもない
だからこそ攻撃を確実に決める

狙うは急所

甲羅と甲羅の継ぎ目、その隙間

相手に踏み潰されぬよう動き回り蟹の複雑に潜り

「ハァッ!!」

渾身の力を込めて一突き

しかしその攻撃は蟹の身動ぎにより急所を外す
そして剣はカツンッと甲高い音を立て勢いよく弾かれた

「ぐぅっ!」

腕を伝う反動に顔を歪ませつつも距離をとって体制を立て直す

甲羅の上で跳ね回っていたマリカも地面に降り落とされていた

もう一度潜り込もうと身構えると突然鋏が検討違いの場所へと降り下ろされた

攻撃点を見てシュネィヴァの全身が逆立つ
目を見開いて駆け出した

鋏の先に姫祇がいた


「やめろぉおぉっ!!」

するとこれを狙っていたかのように鋏は軌道を変えシュネィヴァを横殴りにする

マリカの絶叫、強すぎる衝撃に身体が悲鳴を上げる
気を手放しかけながらどうにかして受け身をとろうとして失敗、俯せに倒れ込む


立ち上がらなくては

力を込めても全身がギシギシと音を立て、血が外へと流れる


気ばかりが急いて動けない

守らなくては
守らなくては・・・

視界が薄暗くなる
鋏が真上に振り上げられたと頭の隅で分かっても体は動けない

ブォンッという音に終わりか?と思った
不思議と恐怖はなくて、まるで他人事のようで

そして激しい衝撃が自分を襲うのだろうと思った



だけど衝撃が襲ってくることは無かった

何かが鋏とシュネィヴァの間に割り込む
目がかすれて、何かは分からなかった、でも

それは確かにどこかで見た人だった

そして意識は暗闇へ―――




「嫌あぁぁぁぁぁっ!!」

シュネィヴァが殴り倒され、マリカは絶叫した

血に濡れる友人
自分より強くて、まだ少しだけど人生の時間を一緒に過ごした大切な人


「うわああぁぁぁぁぁっ!!!」

敵に向かって突進し、手にした短剣をやたらめったらに剣を突き出して相手の気を引こうとする

だけどいつも上手くいくそれが全然出来なくて

「やめて!やめて!
やめてやめてやめてやめてやめて!やめてぇっ!!」

倒れたシュネィヴァに向けて鋏が大きく振り上げられる

「いやいやいやいやっ!立って!立ち上がって!」

シュネィヴァは動かない
鋏が、鋏が降り下ろされる
マリカは力一杯叫んだ

「逃げてっ!逃げてよぅ!シュネィヴァーーーっ!!」


姫祇の方から一つの影が動いたのは、ほぼ同時だった



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