第八話・全能と無力・


「―――――っ!?」

慌ただしい校舎、逃げ交う人々

そんな学校の窓側で、チィリカは校庭の出来事に絶句した


―あのシュネィヴァが薙ぎ倒された―


チィリカとシュネィヴァの付き合いはまだ短い
マリカがいつも笑ってシュネィヴァの事を話をしてくれるから、大体の性格は分かるのだが、やはり自分の目で確かめないとダメだ、ちゃんと理解できない

それにシュネィヴァが戦う姿を見たのだって今日が初めて
あんな動きが出来るのかとつい感動してしまった

だから時間稼ぎに行くと言った二人を疑うことなく信じて、自分はここで皆を逃がしていた


しかしそれは一瞬にして消え去った


マリカが半狂乱で敵を斬りつけにかかるのが見えた
咄嗟に危ないと感じて精神を集中させる
精霊に呼びかけ、水柱をたたせるよう要求する

だけどチィリカはまだ未熟な見習い
先程のように時間があるならまだしも、今は時間がなく無駄に気が焦り上手く集中出来ない


そして大きな鋏がシュネィヴァに向かい振り上げられる

マリカが叫んだ

体が強ばる

世界が止まってしまったんじゃないかという錯覚すら覚えた



だけどそんなことはなかった
誰かがシュネィヴァと鋏の間に割り込んだ
降り下ろされる腕

自分のことじゃないのに怖くなって眼をぎゅっと瞑る


ギイィンッ!!

辺りに響く何かがぶつかり合う音

おそるおそる眼を開けてチィリカは息を呑んだ


「・・・嘘・・・!」


鋏は空中で制止していた
誰かが下で受け止めていた

信じられない光景

鋏は大きな剣に阻まれ動かない
あの巨体を抑えているのだ
どれだけの力があの場で攻め合っているのだろう?

チィリカは詠唱も忘れて、唯目の前の現実を見つめていた


誰かの顔は剣に隠れて見えなかった
けれどその正体はすぐ分かることになる


「ハアアァァッ!」

誰かが叫んで、それと同時に鋏が少しずつ押し返される
露になる顔、知った顔をした彼は


「・・・蒼い・・・小人さん」

姫祇の肩に乗っていた小人の片割れだった

背丈も、服も、小さいあの姿とは全く別物だったがその髪色と瞳はそのままだった

もう一人は?そう考えて姫祇がいる場所を見る

紅い小人も大きくなっていた
真面目な顔で杖をかざし、口を動かしている

魔法―――!

精霊を使役するチィリカだから分かる、大気の動き、噴き上がるような熱量

火の魔法だと直ぐに分かった
けれどその魔法は今まで感じたことのない、大きなものということも同時に理解した


蒼い彼がその大きな剣で蟹の鋏を弾いて、猛然と斬りかかる
紅い彼の魔法は程無くして完成するだろう


チィリカはただ呆然として全てを見ていた
何もかもが思考を超越していて、考えることが出来ない


杖がカラリと音を立てて力の抜けた手から滑り落ちた

誰にも届く筈がない小さな小さなその音が合図のように


敵は動いた




「――っ!危ない!!」

マリカはほぼ無意識に叫んだ
蟹が蒼い大剣士ではなく姫祇と紅い魔術師に襲いかかろうとした

咄嗟に走って二人を助けようとする
だけど、間に合わない

全力を振り絞り、唯腕をクラスメイトの少女に伸ばして、力の限り走った


けれど無慈悲に降り下ろされる腕
泣きたくて、無力で、悲しくて、腕を伸ばした






「ワンパターン戦法だね?それでボク等に勝てると思う?」

そんな場違いな声と共に何かが姫祇の前に降り立って、そのまま橙色の何かは飛び上がり鋏の端を叩く

無理矢理逸らされる軌道
そしてその先には黒髪の誰かが一人
右手には、大きな斧


「そぉうれっ!!」


かけ声と共に放たれる衝撃
化け物の鋏は宙を舞い


「たあぁっ!!」

身体は蒼い大剣士に殴られてバランスを失った

そしてトドメと言わんばかりに紅い魔術師の周囲が妖しく光を帯びて
そして――


「エクスプロードッ!!」


大きな爆発に化け物の身体は包まれて
マリカが爆風に包まれた頃には


全てがもう、終わっていた



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