第四話・逃避の先の不安・



「はぁはぁ・・・ここまでくれば・・・大丈夫か?」

「多分ね・・・」


辺りを見回して二人は一息つく

逃げてきたのは校庭からは見えない体育館の裏側


安全を確認してシュネィヴァは背負っていたマギリを静かに地面に下ろして傷の状態を見る
気絶しているが命に関わる外傷はない
一先ず安心し体に入った力を抜く


「あっ!チィリカ!大丈夫だった?」

嬉しそうなマリカの声につられて顔をあげると、おずおずとチィリカが顔を出すところだった

実は逃亡の際目眩ましとなった水流はチィリカが水精霊を使役して放った魔法だ

お陰で速やかに逃げ切ることが出来た、大手柄である


「ありがとうチィリカ、お陰で助かった」

「・・・いえ・・・私に出来る事を・・・しただけです」

シュネィヴァは立ち上がって謙虚に首を振るチィリカの正面に立ち目元を緩めた


「いや、それでもあの状況でちゃんと自分の役割をこなせるのは・・・やっぱり凄いと思うよ」

うちの船員になってもらいたいぐらいだと呟いてからチィリカ笑って見せた

するとなぜかチィリカは顔を真っ赤にし力無く俯いてしまった
はて・・・?とシュネィヴァが首を捻ると

「お礼言われ慣れてないから照れてるんだよ」

とマリカが耳打ちしてくれた

成る程と納得
追い討ちをかけぬようにしなければ
そう思った矢先


「それに!チィリカはうちの船に乗るんだからね!」

というマリカの発言に全員が目を見開いた

「・・・え?ちょ」
「なに!割り込みとは卑怯だぞマリカ!チィリカは俺の船に乗せる!」
「・・・っ!?」
「絶対にうちの!」
「絶対に俺の!」
「・・・・・・ひぐっ」

「「あ・・・」」

言い争いを止めおそるおそるチィリカを見る
今の口論が重圧になったらしい
ぷるぷると肩を震わせ嗚咽を漏らし始める


「わ、悪いチィリカ、そんなつもりはなかったんだ」

「う、うんうん!チィリカはすごいなーって話したかっただけで別に本気でスカウトを考えてた訳じゃないよ!」

『『半分本気だけど』』

二人の言い訳により、暫くしてチィリカは落ち着きを取り戻す

ほっと胸を撫で下ろした




ドゴオォォン・・・!!
「「「!!?」」」

突然の破壊音と衝撃に全員身構える

状況確認の為にシュネィヴァは体育館の陰からそっと表を伺った
そして


「・・・っ!?」


言葉を失った


学校の先、校門付近に奴はいた

魔物
魔物がいた
見たことのない種だ
姿形はクラブスに近いが、全身は黒くどんな原理か知らないが身体に走った青いラインが怪しく明滅を繰り返していた

それだけじゃない
姿形が違うくらいで然程驚きはしない
何より驚いたのは、大きさだ


「でかい・・・!」


そいつは小さな一軒家ぐらいの大きさがあった
鋏のような腕を振り回し、周りの建物が崩壊させ、瓦礫へと変えていく


化け物だ・・・!


素直にそんな感想が浮かぶ

しかし悠長に考える時間を奴は与えてくれなかった
奴は徐々に学校の方に近づいてきたのだ


飛び出そうと柄に手を回す・・・が

「ダメッ!!」


その右手を掴まれた
振り返るとマリカが恐怖に歪んだ顔で必死にシュネィヴァの手を抑えている


「離せマリカ!」

「駄目!無理だよ!あんなのわたし達が相手に出来る奴じゃない!」

「でも戦えるのは俺達だけだ!」

「・・・っ!」

そう、戦える人間はいない
学校の生徒達は皆、学ぶためにここにいる
戦い方を知るやつなんていない
教師だって生徒にものを教えるためにいる
戦いなんて出来るはずがない

また特殊クラスの同じ船乗りでも戦いを経験したものは少ない
皆若さゆえに雑用が多いからだ
シュネィヴァやマリカのような逸脱した人間はおらず
仮に戦い方を知っていても経験がなければ元も子もない
全ては実戦経験がものを言う


消去法で残るのはシュネィヴァとマリカだけ
それがわかるから

マリカは言葉を重ねることができなかった

チィリカが不安げにこちらを見ている
魔法は役立つが身体・精神への負担が多いのは知っている

無理はさせられない


「・・・マリカは俺が囮になってる間にチィリカと一緒に校内の人間を避難させてくれ、いいな?」

言い切ってマリカの手を振りほどく


「待って!」

声を無視する
胸が痛いが堪える
何か言っている気がするだけど耳を傾けない

決意を固め勢いよく飛び出す


「・・・っ!!?」

動きを止めた
角を曲がったところにそれは立っていた
見知った人物がそこにいた

何でこんなところに?

こちらの動揺を知ってか知らずか彼女はにこりと笑い柔らかな声を発する



「どうしたんですか?シュネィヴァさん?」


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