第三話・壊れた昼すぎ・


ごごごごご・・・っ


体を翻弄する揺れに三人は地に伏せて耐えていた
暫くして揺れはおさまる


「ひぁ〜・・・びっくりした・・・大丈夫チィリカ?」

「・・・はい・・・なんとか」

マリカもチィリカも顔色が悪い
シュネィヴァは二人を気遣い声をかけようとしたが、遠くに聞こえた悲鳴に跳ね起きた


直ぐ様周りの状況を確認する
それは目を疑うような惨状だった


「魔物が・・・っ!」

校門を包囲するかのように、複数の魔物が猛威を振るっている

背後でチィリカが息を呑む
それも仕方がない
シュネィヴァやマリカのように海で見慣れている者達と違い、町から出る機会の少ない人間には魔物を見ること事態滅多にないのだから

ちらりと様子を見るとチィリカは気丈に立ち上がりながらも体を硬直させていた

隣にマリカが無言で寄り添う
いつでも庇えるように


それを見たシュネィヴァはもう一度魔物達に視線を戻す

全部で二、三十匹

中でも一番数を占めているのは青い身体が特徴的なゲコゲコ、それにウオントが数匹とクラブスがちらほら


魔物のある共通点に眉を寄せる
マリカも同じなのか辺りを伺いながらも魔物の軍団を凝視していた


「おかしい」

「・・・なに・・・が?」

状況を上手く把握できないチィリカが青い顔で尋ねてくる
シュネィヴァは一拍間を置いて、疑問を口に出した

「何でこんな町中に水棲の魔物が現れるんだ」

「・・・?」


それは不自然な問題だった


普通町や村を襲う魔物といえばウルフやベアなど動物系の魔物か、ゾンビやグールといったアンデット系の魔物
どちらも陸上の魔物達だ

しかし今襲ってきているのは全てが水棲の魔物

彼等は船、または港を襲うことで知られるが普通こんな町中にまで入りこみはしない
あくまで水辺の範囲でのみ人間に襲いかかる


それに的確な包囲網も不自然だ
そもそも魔物は組織化をあまりしない
したとしても同じ種族間だけであって、全く違う種族と組むなど考えられない

だとすると何かが・・・?


「・・・考えても拉致がねぇか・・・、とにかく逃げ道確保しねぇと・・・」

腰の盾を左腕に装着しマリカとチィリカを見る
チィリカの腕はマリカに握られ、いつでも駆け出せるようになっていた

暗黙の了解でシュネィヴァは囮を引き受ける

腰を低くして敵を引き付けるタイミングを伺いつつ一歩・・・二歩・・・

三歩目で駆け出そうと足に力を込めた


それは刹那の出来事


ガシャアンッ!!

何かが割れる音が響き渡りシュネィヴァは一瞬、駆け出しを躊躇した

しかし直ぐ様地面を蹴り、走り出す
囮なんかのためではない、本気の速度で

ウオントにより割られた硝子、そこからゲコゲコによって部屋から引っ張り出された影があった
見間違えるはずがない


それはマギリの姿だった

「うあ゛ああああっ!!」

わざとらしく大声を上げて魔物の気を引く

魔物達が振り返った瞬間に、跳躍

一番近くにいたクラブスを飛び越え、空中落下と共に剣・カットラスの柄に手を添える

そして着地地点にいたゲコゲコ目掛け抜き様に、一閃


体液が飛び散るのを脇目に見ながら間髪入れず横にいたもう一体にも一撃を入れる


魔物達が喚き出した


それを気にもせずシュネィヴァは走り出す

目指すはマギリを捕らえているゲコゲコ

距離も障害もある
だが、気にするものか

仲間を思うのが船乗りの掟だ
そして仲間を護るのが頭領の宿命だ
それは体に染み付いた教訓、生きるために身に付けた刃


剣で薙ぎ、盾で弾き、足はただ仲間の元へ


残り数メートルのところで数体のゲコゲコが同時に襲いかかってくる
しかしシュネィヴァはそちらに見向きもしない

仲間の援護があったからだ


「はああぁっ!!」

かけ声と共に襲いかかろうとした一匹が派手な音と共に吹き飛ばされる

マリカが蹴り飛ばしたのだ
そのまま残りの数体を短剣・ダガーで斬りつける

マリカの強みはその素早さ
斬りつけの一回、一回は非常に小さな攻撃でも目に見えないその攻撃こそ相手の気を逸らし、隙を生み出す

そしてその隙が与えるのは絶対のチャンス


「どけぇっ!!」

マリカの援護によりマギリの元に辿り着いたシュネィヴァは彼の背に乗るゲコゲコを斬り倒す


そして素早く剣を鞘に納めマギリを担ぐと一目散で駆け出した

マリカが後に続く



魔物達はそれを追いかけようとするが


ブシャアァァァッ!!


地面から急に吹き上がった水流に阻まれ、間もなく獲物を見失った


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