第二話・平穏を過ごす・



遠くから海鳥達の鳴く声が聞こえる

昼下がりの校庭の隅

いつも通りの陣地にいつも通りに三人はいた

「いくぞ皆〜!」

「・・・!(グッ)」

「・・・(キッ)」

間延びした声とは裏腹に緊迫した空気で三人は睨み合う

「マリカ・・・今日こそお前の根性を叩き直してやる」

「それはこっちの台詞だよ、軍配をあげるのはこっちなんだからね・・・!」

「・・・私も・・・負けない・・・!」


シュネィヴァ、マリカ、チィリカは互いに胸の内をさらけ出し臨戦態勢に入る

チャンスは一回

迸る緊張感に冷や汗をかきながら、シュネィヴァはゆっくりと口を開いた

「・・・いくぞ!てめぇら!!」






「さいしょは」

「「「グー!」」」

「ジャンケン!」

「「「ポン!」」」



・・・・・・


「うっし!連続二十七回目の防衛成功!」

「・・・久しぶりに・・・」

「ふみやあぁぁぁぁっ!!」


緊迫した状況から一変

各々が歓喜、絶望の声をあげていた


それは一つの賭け
賭けの代償は

「じゃあ俺はウインナーで」

「はぁっ!わたしのタコさん!」

「・・・私は・・・林檎」

「ああっ!わたしのウサギさん!!」


奪われていくお昼のお弁当にマリカはがっくりと地に倒れ伏した

そう、先程のジャンケンは昼御飯のおかずを賭けた小さな真剣勝負である

一人が負ければ、二人に二つおかずを取られ
二人が負ければ、一人が二人から一つずつおかずを取れるという簡易ルールでこの競技は毎日行われてる

ちなみにマリカはここ数日シュネィヴァに負け続け、更には今日友人のチィリカにも負けてしまった

消えたおかずを恨めしげに見つめる


「なっ?チィリカ、コツを覚えると案外楽だろ?」

「・・・はい・・・分りやすい・・・癖ですね」

「共同戦線!?わたしはいつの間に敵側に回されたの!?」

「気付かないお前が悪い、まだまだ詰めが甘いぞ」

「くうぅ・・・」


切なげな呻き声を上げマリカはゆっくりと弁当に向き直ってご飯を食べ始めた

シュネィヴァもマリカから取ったタコさんウインナーを頬張る


もぐもぐもぐ・・・


「あっ!シュネィヴァったら!ご飯の時くらいそれ下ろしたらどう?」

「んん?」

不意にマリカが指差すのはシュネィヴァの腰にかかる

一振りの剣と小さな盾

護身用と称して常に携帯している愛用の武具を指差されシュネィヴァは顔をしかめる

「そういうお前だって短剣を持ったままじゃねぇか、お互い様だろ」

「・・・確かに」


そう指摘されて言ったマリカもむぅと頬を膨らませる

ちなみにチィリカの後方にも彼女愛用の杖がひっそりと置かれている


学校は平穏といえ、世界には魔物が溢れただでさえ危ない時代なのだ

護身用とはいえ武器を肌身離せぬ毎日

悲しい世の中だとシュネィヴァは思う
けれど変わらず続く日常に感謝もしている


どうか、少しでも長くこの平穏が続くように


重い考えを振り払うようにシュネィヴァは再び昼御飯に手をつける


「・・・!!?」


三人が異変を感じたのはほぼ同時だった






時同じくして、体育館の裏で一人の少女がごそごそと動いていた


「んと、ごめんねごめんね?忘れてないんだよ?」
「嘘だろ、絶対忘れてただろ」
「まぁまぁ」

複数人の声が響くが辺りに見えるのはその少女の影一つ
そんな不可思議な空間にただただ声は響き続ける

「うにゅ・・・、許して、このお肉あげるから」
「よし、いいだろう」
「変わり身早っ!?姫も駄目だよそんなに甘やかしちゃ!」
「え〜いいーじゃーん、ホラホラ上手いぞ〜」
「いる?まだあるけど?」
「僕はいいよ、ていうか自分の分あるしさ」
「全く〜ちょっとくらい好意を受け取ってやれよ」
「あのねぇ〜!」

「・・・?」

ざりっという音を立て少女が立ち上がる

「どうかしたの?」

複数の声も不安そうな声を上げる

しかし少女は一点を見つめ、その場に立ち尽くしていた



「なんだろう・・・」



「海が・・・」



「泣いてるの・・・?」

地響きが学校を襲ったのはその直後だった

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