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幼き記憶の隅


これは古い記憶

俺がまだ弱く幼い時の記憶

だけど決して色褪せることも、忘れ去ることもない・・・大切な記憶





「お前は今日からコレを“着る”のだ」

そう言った『カレ』から渡されたのは幾つか穴のあいた布だった
ロウグはソレを両手で持ち上げ目の前に広げる

・・・分からない

幼いロウグはその布を一頻り見つめ正体を探ってみるが一向に正体が解らない

「コレは何だ?“着る”って・・・何?」

「ソレは人間達が我々でいう体毛の代わりにしている“服”というもの、お前が今体に巻いている布を少し複雑にしたもの」

『カレ』は今手にしているソレ――服について説明をしてくれる

“服”は今自分が寒さ凌ぎに体に巻き付けている布と同類だと『カレ』は言う
説明は続く

「今日は“着る”を教えてやろうか、ロウグや、その“服”にあいている穴の中で一番大きなものを見つけてごらん?」

言われるままに“服”に幾つもある穴から一番大きなものを探す

穴は全部で4つ

その内3つは近くにあってどれも小さい、対し1つはその反対側で3つの穴を合わせた大きさの穴をその布にあけている


「あったよ」

「宜しい、では次にその穴から布を自分の頭の上にかぶるように乗せてごらん」

少し難しいことを言われてしまいロウグは布を見つめて考え出す

穴からというから穴が頭の上にくるのは分かった
布をかぶる?
穴があるのに?

暫く考えるがさっぱり分からない
仕方ないので実際に動いてみる

布の穴の両端を持って頭の上に上げてみる
これで『穴が頭の上に』きた状態
そのままていやっと『布をかぶって』みる

当然の事だが穴があるため布は頭を通過してしまう
布がするりと落ちてきてロウグの視界を遮った

少し怖くなって『カレ』の名を呼ぶ

すると直ぐに頭に何かが乗った感触、布越しに伝わるのは『カレ』の体温
どうやら『カレ』の手がロウグの頭の上にある布をいじっているらしい
暫くすると大きな穴の反対にあった中心の穴からロウグの小さな頭が出た

開放された視界に映った『カレ』を見てロウグは安堵する

しかし『カレ』はそこでロウグに乗っていた手を離し静かにロウグを見つめる

どうやら後は自分でやれと言いたいらしい

ロウグは改めて“服”を見た
“服”はロウグの首回りでわっか状になっている
このままでも十分首は暖かいのだが『カレ』が何も言わないからまだ“着る”ことが出来ていないのだろう
再びロウグはシワのよった布と格闘を始めた――


数分後

最後の服のシワを腰の辺りまでピンっと引っ張る
これでいいのかと『カレ』を見ると満足そうな顔をしてくれた

「それでよい、それが“着る”だ、分かったかロウグ?」

「んー・・・なんとなく」

正直に今の心情を言うと『カレ』は頭を撫でてくれた、温かい


「それでは、また『人間』の噺をしてやろう」

そう言うと『カレ』はロウグの襟首をくわえて自らの背に乗せた
そしてゆっくりと歩きながら何時ものように語り出す


「人間とはほんに不思議なものだ・・・
動物的で在りながら動物に無いものを持つ・・・」

「それは何?」

『カレ』はふむ、と言って少し考える素振りを見せる

「心・・・我々にはない心「感情」が多くある、そうだな・・・例えば“羞恥心”などかな」

「しうちしん?」

「そうだ、人間は歳を重ねていくと“羞恥心”という気持ちを強く持つようになる
まぁ、中には例外もおるようだがの」

ゆっくり、ゆっくり『カレ』は森の中を歩いて行く
一歩踏み出すごとに生い茂る草が音を奏で、周囲に響いて消えていく


「ねぇ、“しゅうちしん”と言うのはどんな気持ちなの?」

「例えば・・・ロウグ、お前が何時ものように遊んでいると仮定しよう」

「うん」

「もしもお前がはしゃぎすぎて転けたとする、ソコをちょうど妾に見られたとしたらどうする?」

「んっと・・・直ぐに立つ」

「そう、お前は慌てるね?そして体温が上がるだろう」

「うぅ?うーん・・・うん」

「人間はそれを恥ずかしがると言う、“羞恥心”とはそういう気持ち」


幼いロウグに『カレ』は例をたてて教えてくれる
お陰でロウグはなんとなく『カレ』の言葉を理解することが出来た
『カレ』は噺を続ける


「人間は面倒だのぅ、毛が長くないから体温は保てんし、毛の代わりの服を着とらんと恥ずかしい、非常識人だと言われる」

「えっ?これを着るしないと恥ずかしいのか?ずっと着るしなきゃいけないのか?暑い時も?」

「そうじゃのう着んといかん」

「うへ〜?」

ロウグは頭の中を疑問符で一杯にした
ヒトの思考が分からない
何時か自分がそんな集団の中に入っていかなければいけないと考えると嫌になってくる



++++++
非常に中途半端な切りで続きます

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