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薄幸少年と学校問題・前



始まりは小さなことだった。

山に囲まれていて、生徒は全員寮生活。一番近い町中に行くにも二時間はかかってしまうため、自然と生徒は外に足を向けなくなる。
そんな閉鎖的な空間にいると、環境に合わせて人の趣向も変わる。

多数の異性愛者が同性愛に目覚めたりするのは、閉鎖的で同性しか存在しない環境にいると起こることがある。
そんな記事をどこかで読んだ記憶がある。
オレの通う学校はまさしくそれに当てはまり、入学してから同性同士で恋愛に発展することがよくある、らしい。
中には拒絶する人間もいるけど、大半の生徒は環境に順応する過程で同性を恋愛対象に見られるようになる、らしい。



そんな学校内に、とある生徒がいた。
彼は二年生で、素行もよく人から愛される性格だったそうだ。
その生徒がある日、生徒会長に告白した。しかも、人の目がある場所で。


それからおかしくなった。


彼に想いを寄せる人は多くて、会長はそんな人達から一気に嫉妬の目を向けられた。
それに、会長へ想いを寄せる人達が怒って反発した。
この出来事だけでもたくさんの生徒が混乱した。
だけど、問題はここで終わらなかった。

彼に想いを寄せる人達の中に生徒会の副会長や、いくつかの委員会の委員長がいた。
彼等は生徒会長に彼をとられまいとアプローチに必死になった。
するとアプローチする彼等が好きな人たちもまた騒ぎだす。
学校はどんどん騒ぎが大きくなって、その内力のある人は職権濫用で相手の気を引き始める。

騒ぎは一向に収まらない。

始まりは彼の告白だった。
その筈なのに、彼はアプローチを受ける内に他の人になびいてしまった。
すると告白された生徒会長も彼の気を引きはじめて、また周囲が騒ぎを大きくする。

とうとう教員の手にも終えなくなって、学校はガダガタと崩れだした。


比較的順応の薄い一年生は騒ぎに加わる人数が少なかった。
ただ、荒れた上級生に巻き込まれる人が絶えず、風紀委員会が多忙になった。
問題なのは、風紀委員のツートップが恋愛沙汰の渦中にいて学校の乱れそっちのけだったこと。
統率者のいない風紀はうまく機能せず、被害者が増えていく。

うまく機能しないという意味では生徒会も同様だった。
六人いる役員の内、仕事をする気があるのは半数の三人。
しかも内二人はオレや隣のクラスの一年生で、まだ業務に慣れていない状態。
必然的に唯一仕事のできる二年生の先輩に全ての負担が回ってしまう。
そこに追い討ちをかけるように、騒ぎによる器物破損の報告書が次々と舞い込んでくる。

何から手をつければいいかなんて分からない混沌とした日々だった。
悪い方向にばかり向かっていく問題。片付かない仕事。
鬱々とした時間が二週間続いた。

転機は、先輩の我慢が爆発してからだ。

二年で会計を務めていた御蔵(みくら)先輩は一年時から優秀で、年度始めには副生徒会長になってないのがおかしいとまで言われていた人らしい。
一年生の役員に物を教えていたのも御蔵先輩で、オレが生徒会内で初めて話せるようになったのも御蔵先輩だ。
だから知っている。
御蔵先輩こと御蔵知博(ともひろ)という人がいかにプライドが高く、大胆で、負けん気が強いということを。

御蔵先輩はまず始めに教員の元へ赴き、自分の権力を生徒会長と同等のものにするよう申し出た。
当の会長が仕事をしていないことは周知だったし、今の生徒会を誰が切り盛りしているか誰もが承知していたから、これは容易く実現した。

次に彼は風紀を立て直すために新しい風紀の代表を立てることにした。
それが御蔵先輩と犬猿の仲で、同じく二年生の神谷(こうや)先輩。
顔を合わせれば一般的に褒められない指サインを送り合う二人だが、現状打破という点で息が合い、彼は提案を飲んだ。

統率者がいれば指示が回る、指示があった方が下につく人間は安心するし仕事の効率も上がる。
風紀がちゃんと回れば問題も少しずつ減るし、減った分だけ生徒会に持ち込まれる仕事も少なくなる。
仕事が少なくなれば余裕ができて他の事に手が回せるようになる。

御蔵先輩は風紀の人と共に、まず騒ぎに乗じて暴れる輩を抑え始めた。

騒ぎを外側を沈静化させていくらしい。
そうして、中心を叩く機会を見計らっていると、オレともう一人の役員である書記に話してくれた。
その時、御蔵先輩は久しぶりに愉快に笑っていた。
とてもとても嬉しそうな様子に、一緒にいた書記の彼は震えていた。



ただ、一連の出来事でオレの周りに変化があった。

風紀委員で、新しく長になった神谷先輩に気に入られていた晴哉が副委員長になった。

目立つ容姿で護身術も使える晴哉は、騒ぎの被害者や、巻き込まれる可能性のある生徒に「風紀に助けを求めてください」と宣伝する役割に最適らしい。
どんどん晴哉が忙しさに追われていく。

するとまた新たな変化が起きた。

いつも一緒だった晴哉が隣にいなくなったことで、晴哉に想いを寄せる人達がオレに色々と言うようになってきたのだ。
時には呼び出されて叩かれたり、殴られたりすることもあった。

痛みには慣れてるし、何を言われたって感じることはない。
ただ、晴哉に知られたくなくてこの事を隠した。
晴哉の仕事を増やしたくない。オレは大丈夫。だったら大丈夫。


『馬鹿野郎』

真っ直ぐこちらを睨んでいったのは御蔵先輩だった。
何度目かの現場をたまたま先輩に見つかり、生徒会室でしっかり怒られた。
その日から帰りは書記の久藤柊人(くどうしゅうと)くんと帰るようになった。

柊人くんと一緒にいるようになると、ある日彼が生徒会長に憧れていたという話をしてくれた。
だから、事件を期に姿を表さなくなった会長に寂しさと悲しさを抱いたと柊人くんは言った。

『三郷君が羨ましいな』

眉を下げながら笑って言われた言葉が胸に残る。

忙しくてろくに晴哉と話ができていない。
晴哉と一緒にいられない。
こんなこと晴哉と出会ってから初めてで、時々不意に隣にいない姿を探してしまう。
その度に一人だと意識してしまって、何もかもが億劫になって。

これが羨ましいの?


オレには分からない。

忙しさのあまり会えていない妹の友香に合いたいと思った。
友香なら、オレの気持ちを言葉にしてくれる気がする。

友香に会いたい。
晴哉と話したい。
オレを理解してくれる人に、この気持ちがなんなのか教えてほしい。


「……教えて」

体を内側から気持ち悪くするこの気持ちの名前を、誰か教えて。




++++++
書きなぐり文章でスミマセン。
ほぼ読み返してないので伝わり辛いとこも多いと思われます。
なんとなく、こんな感じだったんだろうなと思ってください。

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