ライン

甘党同盟



「何か面白いことねぇかなぁ・・・お?」

広間を歩くリグゼートの目に、普段あまり見かけない人物が目に入る。
正面の小テーブル。
その椅子にかけているのはソレイユだった。
日々何かと忙しい彼は、学校以外で見かけることが少ない。

一瞬どうしようか迷ったものの、リグゼートは彼に話しかけることにした。


「やほっソレイユ」

声をかけるとソレイユは少し驚いたように振り返る。

「リグゼートか、何か用か?」
「いや。ちょっと珍しいなぁと思って」
「ん・・・あぁ、今日はこっちで作業をしててな。少し息抜きにと部屋から出たところなんだ」
「へぇ、お疲れ様だな。肩でも揉もうか?」
「ハハッ悪いが、今は考えづめだった頭の方の疲れをとってるんだ」

ソレイユがひょいと小包を持ち上げる。
彼はその中から物を取りだしてリグゼートに見せた。
瞬間、リグゼートは目を見開く。


「こうやって補給を・・・ん?どうしたリグゼート?」
「・・・・・・・・・そ、
それは最近あるコンビニで発売したレアシリーズと名付けられたものの最新作!ふんわりとしたスポンジと一風変わった風味付けが斬新と噂されてる売り切れごめんで有名なレアロイヤルチョコレートケーキじゃないか!!」
「あ・・・ああ」

彼女の矢継ぎ早な言葉にソレイユは思わずのけ反る。
そして、ケーキとリグゼートの顔を交互に見比べ、静かに尋ねた。

「そ・・・そんなに有名なのか?」
「有名なんてもんじゃない!超話題物だぞ!オレまだ食べたことない!ズルい!どこで買った!?」
「実家からこっちに帰ってくる時にたまたま、な・・・」

ちらっと話を聞きはしたがと呟くソレイユの手元をリグゼートは穴が開くほど見つめる。
なぜなら彼女、大がつくほど甘い物好きなのだ。

当然ながらソレイユはそんな彼女の様子に若干戸惑う。
だがそれも少しの間で、暫くするとリグゼートの視線が弱まった。
顔から「いつか絶対ゲットしてやる!」という雰囲気がわかりやすいほど伝わってくる。
ソレイユはもう一度ケーキに視線を落としてから、リグゼートを見た。


「・・・良かったら食べるか?」
「えぇっ!!?」

すっと目の前に差し出されるケーキ。
リグゼートはすぐに首を横にふる。

「いいいい、いいっ!!そんなっ貴重な、次はいつ手に入るかわからないようなものをいただくなんて!とてもっ!」
「大丈夫だ。二つあるから」



「・・・へ?」

ほらと彼が再度小包から取り出したのは全く同じ見た目のケーキ。
レアロイヤルチョコレートケーキ、二つ目。

「な?問題はないだろう」
「え・・・いや、でも」
「遠慮するな。ほら、座って」

いつの間に立ったのやら、さっと滑らかな動作で別の椅子を引いてソレイユはリグゼートを座らせる。
そして何の躊躇いもなく彼女の目の前にケーキとプラスチックのスプーンを並べ、再び席についた。

「では、いただこうか」
「ぇ、あの、何で二つあって・・・もし、かして誰かの分とか・・・?」
「まあ、その予定だったものだな」
「ダメじゃん!余計ダメじゃん!ややややっぱりいいから!その内自分で買って」
「リグゼート」

ケーキを返そうとするリグゼートの手を、静かな所作でソレイユが押し止める。
彼女と目を合わせながら、彼はそっと唇に人差し指を当ててみせる。

「黙っていれば予定なんてないも同然だ。だろう?」

くすりと笑う。


ズキュゥン!!
リグゼートは思い切りハートを射抜かれた気分になった。
思わず赤面しプルプル震えるともう一度彼はにこりと微笑む。

流石は学校で騒がれてやまない(リアル)王子様。
整った容姿でこんな対応されれば女子はたまったものではない。

お相手がいると知らなかったら危なかったかもしれないと、リグゼートは密かに思った。

「な?だから、遠慮なくもらってくれ」
「ん・・・・・・でもやっぱただで貰うの少し気が引けるんですけど・・・」

この期に及んでまだ渋るリグゼートに、ソレイユはふむと顎に手をあてると、数秒の後口を開いた。

「じゃあ、こういうのはどうだろう・・・君は菓子の情報などに敏感な方か?」
「ふえ?・・・ま、まあそれなりには・・・」
「ならそれと交換でというのはどうだ?」

きょとんとリグゼートが目を瞬かせる。
しばし無言の内、ソレイユはどこか恥ずかしそうに視線を逸らした。

「その、なんだ・・・俺はそれなりに甘いものが好きでな。そういう情報をもらえるととてもありがたいというわけだ」

言い終えてからコホン、コホンと恥ずかしげに咳払いを溢す。
それを聞いたリグゼートはまた顔が熱くなるのを感じた。先ほどとは違う意味で。


「そういうことなら・・・構わないけど」
「そうか。うん、そうか、では改めていただこうか」

両者ともぎこちない動きでケーキに施された包装を剥がしていく。
ふんわりと漂った香りはとても甘かった。







それから間もなく、二人は「甘党同盟」を組んだという。

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