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ゆめ、見ました


「お兄ちゃん」

小さい、けれど聞き逃すことはない声が聞こえ、暖炉の薪をいじっていた芙蓉は顔をあげた。
じっとこちらを見つめる黒い瞳。

「どうした無花果?」
「・・・・・・」

無花果はぎゅっと唇を引き結ぶと、何も言わないまま座っている芙蓉の首にしがみついてきた。
それを受け止めながらはて?と芙蓉は首を傾げる。

夕飯の時は確か彼女は機嫌が良かったようだった。
なのに、なぜ今は不機嫌なのだろう?

問いかけるように芙蓉が小さな頭を優しく叩くと細い腕がにより力がこもった。

「・・・悪い夢でも見たのか?」

無花果の様子からそう尋ねてみれば、素直に頭が縦に動いた。


「・・・お兄ちゃんが、遠くに行っちゃったの」

今にもぐずりだしそうな声音で無花果が言う。
小さく震え出した体をなだめるように、芙蓉は彼女の背中を撫でる。


「俺はお前を置いてどこかに行ったりしないよ」

ぐすっと鼻をすする音がして、小さな頭が肩口に押し付けられる。
数分ほど経つと、芙蓉の首に巻き付けられた腕から力が抜ける。どうやら眠ったらしい。

彼はそぅっと無花果の腕を首から外すと、彼女を抱き抱えた。

露になった顔には涙の筋があり、自然に閉じられた瞼から顎へと伝っている。

不安と安堵が混じった寝顔。

芙蓉はその筋をそっと拭ってやってから、小さな体を運んだ。


割り当てられた部屋に行けば、二人と相部屋の胡桃が少しの驚きとからかいを含んだ表情を浮かべた。
しかし、芙蓉はさっさと無花果を寝具に寝かせると、胡桃を無視してまた暖炉の元へ踵を返した。


数分経っても薪は変わらず燃えている。
芙蓉が鉄ばさみで薪をいじると、少しだけはぜた火の粉が舞い上がってすぐ消えた。


+++

無機質な瞳が自分を見ていた。



琥珀はなぜか翡翠と向き合って立っていた。

なんだ?

言おうとしても声がでなかった。
真っ直ぐにこちらを見つめる瞳が、淡く橙の光を灯してるはずの瞳が、今は灰色のように何も灯していないから。

一歩、翡翠がこちらに歩み寄る。

琥珀は動かない。
否。動けない。

一歩、一歩、一歩・・・近づいて、静かに彼の腕が琥珀へとのびる。

するりと、まるで風が通るように自然に翡翠の掌が首に添えられた。

指が、手のひらが、少しずつ、少しずつ彼女の肌に食い込んでいく。

全身が粟立つのを感じ、琥珀は目を見開く。


やめろ!


叫ぼうとして、
叫べずに口を開けたまま、
見開いた視線の先で、


どこまでも無機質な瞳だけが、自分を真っ直ぐに見ていた。




「、っは!・・・は・・・ぁ?」

荒い呼吸を吐きながら、琥珀は呆然と周囲を見回す。
変鉄もない、安い宿の一室。

・・・夢?

妙にリアルな先ほどまでの光景を思い出しながら、琥珀は自分がひどく冷や汗をかいていることに気づく。
そして、気づいたら気持ち悪くて仕方がない。

汗拭きを探して首を動かすと、自分の隣で体を横たえている人物が目に入った。

呼吸音も立てず、彼は仰向けで眠っている。

別に琥珀は異性と共に寝ようが気にしない。
それは彼も同じで、だからわざわざ一つしか寝具のない部屋で体を並べて寝ている。

けれど今朝はそれが無償に腹立たしくて、琥珀は唇を尖らせるとおもむろに彼の頬を引っ張った。

だが珍しいことに彼は何の反応も示さない。
それをいいことに彼女は両手を使って頬をいじくり回したが、やがて飽きたのかやめた。

二度寝しようか。
そう考えて再び寝転がる。
目を閉じて、そうしてあの無機質な瞳を思い出した。



あんなもの、怖くもなんともない。


琥珀はそう思った。
そう思うことにして唇を噛んだ。

無機質な瞳が、脳裏で静かに琥珀を見つめ続けていた。


++++++
頭に思い付いた何か

芙蓉と無花果
二人のベタベタ度合いはどれくらいかな、と考えてみたもの。
結果無花果がブラコンみたいなことに・・・。

琥珀(と翡翠)
少し前に翡翠から見た琥珀みたいなのを書いたので逆に琥珀から・・・と思ったのにこうなった。
不完全燃焼。

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