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太陽と星の話



あるところに、小さな太陽が生まれました。

太陽は生まれてすぐ自分の役割を理解し、地上で営まれる命達を毎日照らしました。

しかし太陽が生まれてから暫くして、突然地上の命が総て消えてしまいました。


太陽は悲しみました。
命を見守るために生まれてきたのに、これでは何のために自分がいるのか分からなくなってしまったからです。


意を決し、太陽は新しく生きられる場所を探すことにしました。

幾つも、幾つも様々な世界を、大地を巡りました。

されど、どの場所にも必ず他の太陽がいて、その世界を煌々と照らしているのです。

長い時間の果て、小さな太陽はもう自分の居場所はないと半分諦めていました。

それでもとぼとぼと太陽は独りで世界を巡り続けました。


そんなある時、ある世界の宵の時間に太陽は弱々しく光る何かを見つけました。

それは、小さな自分よりさらに小さい星でした。

見るからに弱々しく光るその星が心配になり、太陽は星を介抱することにしました。


星は自分が弱い光しか出せないことを悲しく思っていました。

太陽はそんな星を慰め、星には輝ける場所があることを言って聞かせました。

しかし星は悲しそうに言いました。

「それはできない。この世界は星も月も眩しすぎて、弱い私では誰にも見つけてもらえない」

ならばと太陽は言いました。

「私と一緒に探そう。君の輝ける場所を」


そうして太陽と星は一緒に世界を巡りました。

その間星は、いつでも太陽に照らされていました。

少しずつ星は、自分を照らしてくれる太陽を好きになりました。

そして、自分も太陽のように誰かを照らせる光になりたいと思いました。


そんな太陽と星の旅は続き、とうとうと他の太陽のいない、暗い世界に辿り着きました。

太陽は喜び、その世界で自分の役割を果たし始めました。

星もそのことを喜び、同時に寂しく思いながら、その世界の夜に誰かを照らせるよう務めました。


その世界の生き物は温かく世界を照らす太陽の出現を歓迎しました。

だから太陽はより一層世界を照らし、生き物を光で包みました。


しかし暫くして、太陽は地上が渇き、生き物達が弱っていることに気づきました。

すると、少しずつ世界に射す光が弱まっていきました。

不思議に思った星が太陽の様子を見に行くと、太陽はまるで怯えるように小さく、小さくなってしまっていました。

どうしたのかと星が尋ねます。

太陽は答えました。

「私が強く照らすせいで大地が渇き、生き物が弱っている。私はもう地上を照らさぬ方が良いのかもしれない」

「いいえ、それは違います」星が言いました。

「確かに大地は渇いているかもしれません。しかし、そのせいで生き物が弱っているわけでは決してありません。
大地も、生き物も、新しくやって来た貴方を迎えるために姿を変えているのです。
ほら、あそこをご覧ください」

そう言って星の示す先には、ある生き物の親子が大地の上を歩いています。

子どもの方は幼く、まだ生後間もないことが見て分かりました。

「あの子はまだ貴方に照らされる温かさを知りません」

星は言いました。

「貴方が照らしてくれることは暖かいこと。私はそれをよく知っています。そして、それに救われたのも私です。
どうか照らすことを怖がらないで下さい。貴方の暖かさは、貴方にしか伝えることはできません。
それに、生き物達は決して弱くはありません。
彼等の強さを信じて、どうかまた世界を照らしてください」

星の説得に、弱々しくなっていた太陽は少しずつ、その輝きを放ち始めます。

星は嬉しそうに笑って、太陽の手をとり大きな空へ連れていきます。

薄暗かった世界が少しずつまた明るくなりました。
地上を歩いていた生き物の子どもがその柔らかい暖かさに顔を上げます。
そして真っ直ぐに太陽を見上げたあと、嬉しそうに親に擦り寄り、力強く大地の上を駆け始めました。

他の生き物達も、太陽が再び輝き始めたことが分かると、まず、真っ直ぐに太陽を見つめ、そして力強く動き始めました。


ほら、と星が嬉しそうに笑います。

太陽も微笑んで返します。



「ありがとう」


太陽が言いました。
星はより一層嬉しそうに満面の笑顔をこぼしました。






あるところに命に溢れた世界がありました。

空には明るい太陽が燦々と輝き、生き物を照らしていました。

夜になり、その太陽が沈むと、まず始めに輝く星がありました。

太陽と違い、静かな優しい光を放つその星も、生き物に愛されておりました。


星は、昼間輝く太陽を見上げ自分も一生懸命輝くことを思います。

太陽は、夜間煌めく星を見つめ、また明日も頑張ろうと思います。


その世界が終わるまで、太陽と星は交互に光り続けました。

その世界が終わるまで、世界から二つの光が消えることは、ありませんでした。


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