頭を撫でて
「アポロ」
名前を呼べば、彼はいつも振り返って笑ってくれる。
いつまでも周囲が怖くて堪らない私の頭を撫でて、「大丈夫だよ」と言って安心させてくれる。
私はそんなアポロの傍にいたい。いつも優しくて、気持ちを穏やかにさせてくれるアポロといたい。
だけど、私は戦えないから。
今日も恐ろしい敵と戦いにいくアポロをいつものように見送ることしか出来ないのだ。
+++
「ノインさん!」
彼のものとは違う声に呼び止められビクッと体を震わせる。そろそろと声の方を見ると、自分より小さな体に明るい翠の髪と頭に似つかわないほど大きな角を持つ見知った人物と目があった。
「アーク・・・さん?」
「うん、こんにちは」
にこりと人懐こい笑顔を見せる顔見知りにノインは肩の力を抜いた。
まだ彼のことは怖いけど、でも全く知らない誰かに話しかけられたわけじゃない。
「何か・・・用ですか?」
「そうそう!ノインさんって新しい服とか持ってる?」
「・・・服、ですか?」
新しい、ということは今着ているこの服以外に持っているかということか?
正直に持っていないことを首を振って伝えるとアークは「そっか!」と言って顔を輝かせた。
「昨日アルカと街に出たとき服を見ていたんだ。そうしたら色々とあって・・・ノインさん他の服あまり見かけないからどうかなって。
丁度良かったね!買った服はアルカが持ってるから見てみてよ!」
ね!と嬉しそうな顔で言われたのに気圧されて思わず頷くと、アルカナさんの部屋に行くよう促される。
言われるまま彼女の部屋に入ると待ってましたと言わんばかりにそれを手渡された。
「どうです?ノインさんにピッタリだと思うんですよ!」
そう言われノインは手元に目を落とした。
青と黒のピッタリとした衣装に白いスカート。
自分に似合うと言われてもよく分からないが、アルカナさんが着ろと急かすのでとりあえず着替えることになった。
服のサイズは自分の体に合っていて、スカートも今までのものと長さは変わらないので然程違和感を感じない。
新たに手渡された、前と同じ黒色のローブを着込むと、着替えたことを感じさせないほど自分に馴染む。
「最後はこれですよ〜」
「・・・帽子?」
「はい!」
身に付けたことのない装飾品を頭にのせると、すかさずアルカナさんに直される。すっぽりと頭を覆われるとうわあとアルカナさんが声をあげた。
「やっぱり!すごく似合ってますよノインさん!」
ほらほらと言って鏡の前に立たされる。
写っているのはいつも通り眠たげな顔をした自分。だけれどいつもと違う自分がそこにいた。
「ね?すっごく似合ってますよ!」
「・・・似合ってる?」
「はい!」
よく分からないが、アルカナさんがあまりにも力説してくれてるのでそういうことなんだろう。
どこかそわそわした落ち着かない気分になったが、不快ではない。
「あ・・・・・・」
ふと窓の外を見て、日が傾いていることに気付く。
アポロが帰ってきてもいい時間。
それが分かった途端、気持ちが落ち着かなくなる。どんなに親切にされても完全に怖くなくなった訳ではない。安心できるのはアポロの隣。
意識すればいてもたってもいられなくなり、ノインはアルカナに礼を述べると足早に部屋を出た。
そして見慣れた姿を探すように廊下を走った。
+++
暫くして一番会いたかった後ろ姿をようやく見つける。
「アポロ」
いつものように名前を呼べば彼は振り返り笑ってくれる。
だが、今日は違った。彼は振り返るとその目を少しだけ見開く。
どうしたのだろう。
「ノイン?何だか、朝と格好が違うような気がするだけど?」
格好と言われ、すぐ自分の姿のことだと思い当たり納得する。
「うん。さっき・・・着替えたの」
「そっか。似合ってるよ、それ」
アルカナさん同様に褒める言葉を向けられそわそわしてしまう。
少し俯きがちに彼の隣に寄るといつものように腕がのびてきた。が、その腕はピタリと中空で止まってしまう。
不思議に思って顔をあげると、いつもと違ってその手は自分の頬の辺りを撫でてくれた。
そこではたと気付く。
今の自分は帽子を被っているから、いつもみたいにアポロは頭を撫でれない。
頬を撫でてくれるのも安心するが、やはり頭にしてくれるのとは違う。
「どうしたノイン?」
いつものように笑ってアポロが言う。
だけどいつもと違う流れ。
「アポロ」
呼びかけて私は、自分の頭を覆う帽子を外した。
一瞬ぽかんとしたアポロは、けれどすぐこちらの意を汲み取っていつものように頭を撫でてくれた。
やっぱり、頭を撫でてもらうのが一番落ち着く。
安らぐ気持ちを感じながら、私はいつも通り彼の腕を掴んだ。
頭を撫でて
今日も帰ってきてくれたことを感じさせて。
++++++
それから帰ってくる度ノインが帽子を取ればいいよという妄想。
アポノイ可愛い
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