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儚い願い



小さな世界で 君を見つけた。

僕は安堵に思わず微笑んだ。









「・・・・・・あっ」

いきなりの風に煽られて、何もなかった空に花弁が舞う。


美しい。


けれど儚い。


足元の花弁を無くした、小さな花だったものに触れてみる。

茎を指先でなぞると、それに従って花が揺れた。


弱々しくて、
健気で、
儚げで、
だけどしっかり根をはっていて、
力強い。


手を離して、もう一度空を見やる。

美しかった花弁はもう其処には無かった。


風が頬を撫でる。


僕は独り。
唯広く蒼い空を見詰める。


綺麗だと。

偉大だと。

漠然と意味もない事を考えて体を縮める。


此の空の上にソレは在った。

此の空の上でソレは哀しみに消えた。


記憶が僕に語りかける。

魂の中のキミが懐かしさを訴えかけてくる。



胸が痛い。


どこからともなく風が掠めて往く。


地平線の先に何かを求めて。


僕は独り。
座って空を眺めてる。


身体の奥に熱を感じて、

瞼の裏にじんと熱が灯った。

視界がぐにゃりと歪む。

・・・けど、






声が聞こえた。

陰りを感じて振り返る。


眼に映ったのは華やかな紅。

大きな紅色の瞳が驚き半分、飽きれ半分で自分を見つめている。


何泣いてんのよ。


君の言葉に僕は曖昧な返事しか吐き出せなかった。


潤んだ視界が直らない。

零れそうで落ちない滴が留まっているから。


君が苦笑いをして僕の隣に座る。

途端、甘い匂いが鼻孔を刺激してきた。

高鳴る鼓動。

熱くなる頬。

君から目を逸らした。


―ぽたりっ。


滴が掌に落ちた。

胸に広がる温かさ。


不安の気持ちが何処かに消えた。


君に視線を戻す。

また鼓動が早くなった。

高まる体温。


だけど不思議な安心感。


ぐちゃぐちゃな思いが全部消え失せて。

代わりに愛しさが心に生まれる。


僕の変化に君が首を傾げる。

不思議そうな君に僕は言った。


もう大丈夫だよ。


不器用に、

微笑んで。


君は一瞬ぽかんとしてから、変な奴って可笑しそうな顔をした。


だけどちょっとだけ・・・。



僕がそう言って少し目を細めると、彼女近付いてきた。


だったら少しだけ付き合ったげる。


ふわりと囁いて。
君が僕の肩に頭を預けてきた。

僕も少しだけ君の体に寄り掛かった。


あったかくて、

愛おしくて、

何だか凄く、





幸せだった。









独りで寂しくても。
君が支えてくれるから。


だから僕はそんな君と歩みたい。



儚いけれど小さな夢を。

風に乗せてそっと祈った。



++++++
キミはアスラのこと。
ソレは天上のこと。

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