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自分勝手な痛み




サニア村に着いて、ルカと再会した夜。
イリアは再び偏頭痛に襲われていた。


「いったー・・・」

今彼女は一人、家の外壁に寄りかかって項垂れていた。
この不快な痛みも回を重ねれば自然と我慢できるらしい。
お陰で仲間内にばれてはいない。両親は別だが、知っててそっとしておいてくれてるのだと思う。


ズキズキと頭を締め付ける感覚。

前世のことを思い出そうとすると痛む。正確に言えば、イナンナがアスラにした所業を思い出したくない拒否反応。それがこの偏頭痛の正体。

けれど、もう全て思い出してしまった。

イナンナがデュランダルでアスラを貫き。
アスラがそのデュランダルをへし折ってイナンナを刺す。

愛し合った二人が、互いを殺し合う風景を。


なのになぜ今、こんなにも頭が痛いんだろう。

まだ思い出したくないことでもあるというだろうか?イナンナの秘密の多さに思わずげんなりする。

あとどれくらいで鎮まるだろう?


はぅと息を吐いて頭を壁に預けると、近くでゴトという物音がした。


「誰っ!!」
「うわっ!?まっままままま待ってイリア!」

日頃の癖で素早く銃に手をかけるとそいつは慌てて制止を訴える。
その情けない反応に呆れ、はぁと力を抜いてまた体を壁に預けた。


「なら紛らわしい真似しないでよね・・・で?なんの用なのルカ?」


こちらを伺うように顔を覗かせていた少年がおずおずと近づいてくる。
そして一歩分の距離を置いて自分の隣にしゃがみこんだ。
そうして少し眉を八の字に下げて話し出す。

「えっと・・・どうかしたのかなって。イリア、急にいなくなってたんだもん」

心配、してくれたのだろう。思い返せば彼はいつも偏頭痛を患う自分を気にかけてくれていた気がする。
嬉しい、けど照れくさくてそっぽを向いた。

「あたしだってたまにはナイーブになるの」
「それなら自分の部屋にこもる気がするな。だってイリアの家だから」

正論を返されうぐ、と口ごもる。
なんだかいつもよりルカが強気だ。前世の問題から吹っ切れた影響だろうか?
いつもならあまり合わされない視線も、今は真っ直ぐこちらを見ている。

「・・・おたんこルカに悟られるとはあたしもまだまだね」
「ははは・・・それで、どうしたの?」
「別に。ちょっと頭が痛いだけ」
「いつもの頭痛?」
「だと、思うけど」

平気?と顔を覗き込まれる。翡翠の大きな瞳に自分が写っていて、妙に恥ずかしくなった。
バッと顔を背ける。相手が怪訝な雰囲気になったのが見えずとも伝わってきた。

「ほ、ほら!痛いけど・・・すぐに治るし!余計な心配かけるのもあれだからね!だからここにいるだけっ!」
「そう・・・なの?」

半信半疑といった口調に冷や汗が流れる。
なにをあたしはこんなにも慌てているのだろう。
顔が火照って、風でも引いた気分だ。
早く諦めてどこかに行ってくれないか、そう願った途端。


「・・・・・・いな」


ぽつりと呟かれた声にえ?と聞き返してしまう。
思わずルカの方を見れば見慣れた困った顔で小さく笑っていた。


「少し・・・寂しいなって思って・・・・・・その、頼られてないのが」

力なく発せられた言葉に目を見開いた。

「べっ別にそんな訳じゃ・・・!」
「あ、分かってるよ。イリアは皆に心配かけたくなかったんだよね」

それでも、とルカがこちらを見つめてくる。

「一言、何か声をかけてほしいな。
やっぱり、いきなりいなくなったら皆もっと心配するだろうし・・・いつも心配されてる僕が言えたことじゃないけど」

はははと力なく笑ってルカが目を逸らす。

じゃあ僕は戻るね。そう言って彼は立ち上がる。
一歩、遠ざかって、そこで動きが止まる。

彼が振り返り、そして見た。




あたしの手が、しっかりルカの服の裾を掴んでいるのを。


「えっと・・・」
「なに?頼っちゃいけなかった?」
「え?」

目に見えてルカが慌てる。えーだのうーだの言って視線をあちこちに彷徨わせる姿はすごくみっともない。
けれど、暫くしてすとん、と隣に座ってくれた瞬間は物凄く安心した。


「・・・治るまでだから」


言い訳みたいに呟いて、頭をルカの肩に乗せる。

バカみたい、あたし。




頭痛なんて、ルカと話す頃には治ってたのに。



変な話で、ルカが戻ろうとした一瞬だけまた痛みがやってきたりした。

まるであたしの中のイナンナが、ルカの中のアスラに「行かないで」と言うみたいに。


ホント、自分勝手な女神様。



ルカに体を預けたまま、イリアは頭が痛い演技をするためにそっと目を閉じた。






++++++
イナンナ=イリアの本心みたいな誤魔化し方は絶対可愛いなと思い。

実は誰かに目撃されてて茶化されてても面白い。

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