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君の隣で




淡い金髪に優しい翠色の瞳の彼の名はエミル。私が魔物に襲われそうになった時、身を呈して守ろうとしてくれた優しい少年だ。
それから色々な縁があって彼と旅することになった。あんな出会いもあって、私は彼に随分と美化した印象を持ってしまったけど旅の内に本当の彼を知った。
気弱で自信もなかなか持てなくて直ぐに謝ってしまう。ウジウジしてちょっと陰気な雰囲気にもっとシャキッとしてほしいと何度も叱咤した。
でもそれは、本当に心から優しい彼の表れ。
いつでも私を心配してくれる温かさに持っている証拠。



目的の本を数冊抱えて、部屋の中央にある机まで運ぶ。エミルの方も選んできたらしい本を抱えて来た。

「じゃあ頑張って探そうエミル」
「うん・・・わっ!」

ぐっと握り拳を作る私に頷いたかと思うと、慌ててエミルは自分の胸をおさえる。そして聞こえてくる話し声。

「だっ、ダメだよ今は・・・これから調べ物するんだから・・・君は、本読みたくないんでしょ?・・・・・・え?不公平?そんな!僕だって少し喋るくらいで別に・・・・・・」
「大丈夫、エミル?」
「ぇ、ああぁうん!うん!大丈夫・・・だよ」

はははと力なく笑って誤魔化しながらエミルは早々と席につく。胸をおさえたまま、もう一人の彼をおさえたまま。




エミルは二重人格。もう一人の彼は強い紅色の瞳をしていて、エミルとは真逆に男らしい性格で腕っぷしも強いし言葉遣いも荒い。その豹変ぶりに最初は腰が抜けそうだった。
勝ち気で気まぐれで乱暴なもう一人のエミル。だけど彼もぶっきらぼうな優しさを持っていて、温かい。
最初の内こそ、全く違う二人のエミルに違和感があった。どちらかと言えば過ごす時間の長い翠のエミルを信頼していた自分は、紅のエミルに八つ当たりしたこともある。でもそれは、大きな間違いで。
小さな気配りとか、肝心なときに少しどもる自信のないところとか、紅の彼のはずなのに翠の彼のような姿を垣間見て、この人も間違いなくエミルであると知った。

優しいエミル。
カッコ悪いところもあるけど、いつだって私を傍にいさせてくれる。
今だって、自分はとても大変なはずであるのに。



「・・・全部、違ったみたい」

パタンと最後の一冊を閉じてエミルを見れば、彼も力なく首を振った。

「ん・・・まぁこんな日もあるよ!まだまだ調べてない本はあるし!明日また探そう!」

なんて言ってみるけど半分空元気だ。
実際調べ初めてから、殆ど進展がない。こうしてる間にも、彼と皆の溝は広がっているというのに。
それなのに。


「あんまり無理しないでマルタ」

そっと手が重ねられた。高ぶる気持ちを沈めるような優しい温かさが手のひら越しに伝わる。

「焦っても逆効果だし、そんな風に無理したらそれこそ疲れちゃうよ。だから力を抜いて」
「でも・・・」
「心配してくれなくてもいいよ。僕も彼も平気だから」

ふっと目を閉じて笑う姿に胸が痛んだ。

無理をしているのは彼も同じ。
自身が精霊であると告げられて、一人で駆け出したあの日からずっと癒えない傷を引きずってる。

異なるのに。
生まれた頃から人間のように生きていた。
だから彼は知らなかった。
自分が鍵を握る精霊その人であるのに、人間になりきった彼は力の使い方を知らなかった。

だから非難された。
信じていた人から。
信じられていた人から。


今こうして調べているのも、彼自身がどのような存在で、どんな力を持っているか知るため。
彼がもう一度あの場所に戻るために。



「マルタ、ありがとう。こんな僕のために一緒に必死になってくれて」

そうしてまた笑む君を私は見つめる。
辛いのも、
苦しいのも、
痛いのも隠そうと笑う。
そんな距離のある仕草はもう止めてほしい。
だから私は言うのだ。




「私は諦めない。君が見つけたいものを見つけるまで、私も諦めない。絶対、絶対絶対、絶対に諦めない!それまでどんな無茶だってする!だから、まだお礼なんて言わないで」

強い意思を込めて、私は自ら近づいてエミルの胸に抱きつく。
温かい体、意外とたくましい体、トクトクと響いてくる心音。全部、今感じてる彼そのもの。

「・・・ごめんね。ありがとうマルタ」

彼らしい言葉と共に背中に腕が回される。
触れ合う体。
たとえ精霊という存在であろうとも、こうして感じ取れる全ては本物。
君が人間である証。


絶対に見つけるから。
君が君を取り戻す方法を。

だからまだ私を君の隣で歩かせてね。

「絶対に君と一緒に歩む足を止めないから」





彼女を近くに感じながら僕は心の中で呟く。

知ってる?僕が調べ物の最中に思ってること。



まだ見つからないで。



傷は痛くてもいいから。
今はまだ人間と偽らさせて。

君と一秒でも長く一緒にいるために。



+++
ラタトスクを夢で見たらこんなでした。
エミルは互いの人格を認知してます。双子みたいな感じ。

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