ライン

恨めしい男



頂点に達した太陽が煌々と大地を照らす正午。次から次へ流れ出る汗を乱雑に拭いながら、メイヤは歯を食い縛っていた。



遡ること一時間前の午前十四時。

「はぁ?実験?」

急に脈絡のないことを言い出した男を、メイヤは呆れ顔で見つめた。

「いいじゃんか。俺はお前と違ってまだちゃんと分かってないことの方が多いんだし。少しくらい付き合ってくれよ」

な?と頭を下げてくるオカに対し、腕を組んで思案する。
いつもならこういうことはサポート型のリサや、彼と共に仲間入りし物事の吸収が早いフィールに聞いているはずだ。

「・・・一体全体、どんな風の吹き回しだ」
「聞いてくれる気になった?」
「内容によるけどな」

乗り気ではないが、今ではこの男も大事な戦力である。それに自分から物を知ろうとする姿勢を無下にするほど人でなしなつもりはない。少しなら付き合ってやろう・・・そう思った。

「ありがとな!じゃあ早速・・・波動同士の反発について知りたいから出してみてくれ!」


「・・・・・・は?」
「だーかーらー!波動の反発を・・・」
「ちょ、ちょっと待て。実験って・・・それか?」
「おう」

呆れた。


「お前なぁ・・・それについては算出データが全部出てるぞ」
「見たよ。見たけど体感してみねーと分からないじゃん」

むっと頬を膨らませる姿は正にガキのそれだった。こいつはいつもそうだが、何でも体験してみないと気が済まない。
だが、反発現象なんて不快以外の何者でもない。

そもそも、波動の反発とは真逆の性質を持つ者同士で、正と負のどちらかが強すぎる場合もう片方が起こす防衛反応だ
どちらかが強すぎると反対の力を持つ者に相乗効果が強く現れすぎて、苦痛となる。

それから身を守る手段が反発現象。強すぎる波動に対し、少量の波動の膜でもって影響を受けないように体を守る。
ただし、波動は使用者の意思でもって放出と抑制を行うものだ。それを反発現象では強制的に波動を放出させられる。それはまるで体を操られるような感覚。

だからメイヤは呆れている。自分に放出を促すということはオカが反発現象を起こすということだ。赤紫と青紫、真逆の性質を利用して。
あの不快感を自ら味わうために。


「他の奴を当たれ」
「えぇ!そりゃ無理だろ!だって赤紫はお前以外にいないし!」
「赤の奴に頼めばいいじゃないか」
「そういう問題じゃないんだよ!」
「じゃあなんだって言うんだ!」

若干の苛立ちを込めると、真剣な瞳がこちらを射抜いてきた。

「・・・俺は、お前だから頼んでるんだよ!」



「・・・・・・は。」
「だから!こんな事、信頼してる奴にしか頼めねーじゃんか!」

だから頼むよなんて両手を握られる。握られた手からじわじわと熱を帯びていくのを感じた。

体がおかしい。

信頼されているという事実を告げられただけなのに。他の奴らじゃこんなこと、絶対に起こりっこないのに。

熱い。熱い熱い熱い。



気づいたらオカの手を振りきって駆け出していた。


そして今に至る。
何でこんな時間に外に出てしまったのだろう・・・かといってすごく帰りづらいのが現状。

どうして

こんなの不快だ。
不快なんだ、けれど。



「メイヤーーー!」

ドクンッと心臓が跳ねる。ああ、どうしてあいつはこんな自分でも追いかけるような性分をしてるんだ。本当に恨めしい。

「はぁ、はぁ・・・驚かすなよ。探したじゃん」
「・・・何で」
「だって付き合ってもらいたいし。それまでは粘る・・・てか、あっちーなぁ・・・外」

走ってきたことで上気した顔から彼が汗を拭う。

「なー・・・メイヤ頼むよ〜・・・マジお前にしか頼めないんだって」

するりと。
肩を掴まれる。
機動性を重視した服のため、むき出しになっている肩に手が触れる。

刹那、カッと全身が熱くなる。ドクリと跳ね上がる心臓。

「触るなっ!」
「ぐえっ!!!」

激情のままにメイヤはオカの顔を殴った。ドサリとその場に倒れる男を見下ろしながら、荒い呼吸を繰り返す。


ゆらり。
視界を赤が霞める。

それを自分から出た波動だと認識するよりも先に、オカの体が不自然に跳ねた。

反発現象。

不快感に襲われただろう数秒後、彼の体からゆらりと青紫の揺らめきが立ち上る。


「なるほど・・・確かにこれは嫌だなぁ・・・」

呟いて立ち上がるオカ。
赤紫を纏った自分に青紫を纏った彼が向き合う。

「サンキューなメイヤ。よくわかったよ」

ぽんと再び肩に手が置かれた。今度は大丈夫だったけれど、心臓がドクドクと音を立てていつもより早く活動をしだす。
相乗効果による昂り。

小さい深呼吸をして身から放出する波動を落ち着ける。消えていく赤と青。

「・・・満足か?」
「そりゃあもう。さて!早く中に入ろうぜ。ここあっちーよ」

ニカリと満足そうな笑顔がメイヤに向けられる。
ああ、その性格が、性分が、なんとも言えず・・・小憎たらしくてしょうがない。

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