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ほのぼの小話



「カシ、腹へった、何か食べよう」
「ほんの一時間前に食べたばっかじゃん」
「でも腹へった」

ぷぅと頬を膨らませるのは自称男子の少女でツレのティクシィア。上目でこちらを睨んでくるものだから俺は若干、いや、大分きてる。

「・・・あんま食うと太るぞ?」
「大丈夫だよ、成長期だから。栄養はみんな身長に加算されるんだよ」

だから問題ないと威張って言う姿は愛くるしい。しかし、成長期にしても無理がある。
第一俺は平均よりちょっっっとばかし背が低かったりする。それより低いティクシィアがこれ以上伸びるとは・・・なかなか考えられない。

「・・・お前失礼なこと考えてっだろ?」
「べっ、別に?」
「嘘つけ!目が泳いでんだよ!どうせ伸びないとか考えてたんだろ!!」

図星。

「カシのバーカ!!ボクはこれからぐんぐん伸びるんだ!後からぐいんとくるタイプなんだ!お前なんかすぐ抜かすんだからな!」

どうやらお怒りスイッチが入ったらしい。げき怒プンプン状態でぺしぺしと叩かれ、叫ばれる。

ぺしぺし、ぺしぺしぺし。

「とにかく何か食わせろ!」
「やだよ。てか俺の財布を頼るな!」
「何だと!カシのくせに生意気な!!だったら・・・お前を食う!」

は?と聞き返すより早くティクシィアがぐいっと近づいてくる。そして、

かぷり。

二の腕に食いつかれた。
それでも歯は立てず、あぐあぐと力をいれずに甘噛みしているだけなのだが、
だけなのだが、



可愛い。


目で「どうだ参ったか!」と訴えられるが降参する気は全く起きない。むしろ、このままでいても一向に構わないと煩悩が叫び出す始末だ。

「・・・もっほ、ふよくはんへやほうは?」

モゴモゴ言葉が俺の理性に1000のダメージ。ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイ。


「〜〜わかったよ!何か買やいいんだろ!」
「さっすが太っ腹〜!」

観念した瞬間にぱっと離れるティクシィア。
安心半分、残念半分で俺は気づかれぬよう溜め息を吐いた。



惚れた弱み


+++

「・・・・・・ロウグさん?」

すんすんすん。

「えっと・・・どうかしましたか?」

首を傾げて尋ねてみても、彼から答えは返ってこなかった。
それでさらにナキは困ってしまう。
なぜかは知らないが今ナキは先日出会ったばかりの少年ロウグに、体の匂いを嗅がれていた。

この年上の少年は森で動物に育てられたと聞く。そのためなのか足は速いし、目はいいし・・・鼻も利く。
しかし、その利点でなぜ自分がくまなく匂いを調べられているのかナキには理解できない。
そろそろ不安が臨界点に突破しかけた頃、ロウグは顔をあげてなぜか神妙な顔をした。

「あの・・・ロウグさん」
「謎だ・・・」
「えぇ?えっと・・・何がですか・・・?」
「・・・なぜお前に生き物が好んで近づいてくるのかが分からない」

ナキは思わず目をぱちくりさせた。
確かにナキは幼い頃から動物に好かれやすい。
ハキと遊びで森に入ればリス達に体を登られるし、スゴいときには歴戦の猛者という雰囲気を漂わせる狼が足に擦り寄ってくる(その時は流石に泣きそうになった)

「つまり・・・ぼくの体の匂いに何かあるかなって思ったんですか?」
「何らかのフェロモンが出てるのかと考えたんだが、違うらしい」
「ふーん・・・?」

知らない単語が出てきてよく分からないが、とにかくロウグは当てが外れて複雑な顔をしてるらしい。

「ところで、何で急にそのことを調べてきたんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・羨ましさが」
「うん?」

意外な言葉にまじまじとロウグの顔を見上げる。そういえば彼は動物に囲まれてたりすると信じられないくらい顔が緩むのだ。それくらい動物が好きで、だからナキのその体質が羨ましいらしい。

「あ、それならぼくがロウグさんにぴっとりくっついてたらいいんじゃないですか?そうしたらぼくの近くに寄ってきた動物達がロウグさんの近くにもきますよ」

名案とばかりに提案してみると、いつもは鋭いロウグの瞳が少しだけ柔らかくなった気がした。
それが嬉しくてナキは少しだけ久しぶりに笑った。


++++++
カシヤとクミカの弟ナキのお話。
カシヤとティクシィアのやり取りはいつも通りですが、ナキは初めて喋らしたのでロウグと掛け合わせるのが楽しかった。
こんな短めでもいいので少しずつ周囲の子達も出していきたい。

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