配属初日〜シーザ〜
バタンッと騒々しく開け放たれた扉。そちらを見やりシーザは眠そうな瞳を少しだけ大きく開いた。
「疲れたっ!!」
「お〜帰ってきた」
「もう寝るっ!!」
「そんないきなりベッドにダイブ・・・って早っ!!もう寝てるし!!」
彼は真っ直ぐ寝具に飛び込むなり寝息を立て始める。
一応確認とシーザがボサボサの頭をつんとつつくが、彼―レヴァルからの反応は皆無だった。
ものすごい疲労っぷりである。
レヴァルのこんな様子をシーザは入隊以来初めて見た。
「ほら、言った通りだろう?明日筋肉痛にならなければ秀だ」
「いや〜この調子じゃそれは無理でしょ〜」
「だったら可だね。それでもちゃんと一日こなせたなら合格だ」
フフッと屈託のない笑みを浮かべるのは、今朝シーザが師事を受けることになった特殊隊団長のラグディス・フィリスだ。
シーザと歳は変わらないのに、既に周囲から一目置かれている存在がこうして目の前にいるのが未だに信じられない。
「まあ、僕の場合大分特殊だけどね」
「やだ〜読心術ですかぁ?」
「さあね?」
害意のない笑みを浮かべるうら若い師匠にシーザは目を細める。
生まれてこの方、シーザは人の本質を見極め、感情を読みながら他人との距離を上手く隔てて世の中を渡ってきた。
だから少し観察していれば、相手がどんな人間であるのか特定するのは慣れっこである。
レヴァルとペアで動けるよう画策するのも、彼の本質を判断し終えているからこそだ。
だが・・・この先輩は、読めない。
もう一人、レヴァルの師となった椎那・ユルゲンスは表が真面目で努力家、裏は劣等感に苛まれた人間だとすぐに分かった。
しかし裏腹に、彼女の相方であるラグディスは判断がつかない。
表は温厚で屈託のない性格でよいだろうが・・・裏側が掴めない。
自分に見せる顔、椎那に見せる顔、はたまたレヴァルに見せる顔・・・どれにも微々たる差異があり、確信が得れない。
分かっているのは、彼は計算高く物事を見極めることに長けているということ。
おそらく、人を見る目は自分以上・・・。
「それはどうかなぁ?」
ふふふ、と笑うのは彼の表の顔。
果たしてその下で彼は何を思い考えているのか・・・やはり現時点のシーザには読み取ることができなかった。
「・・・分かんない人」
「そんなものだよ、付き合い始めなんだからさ。これから時間をかけて互いを理解していく・・・それが普通なんだよシーザ・フォアッテ君。
まぁ、これまでの君からしたら理解できない状況だろうけどいい機会じゃない。これで君もレヴァル君側の感情の動きを、またひとつ理解できるんだから。幅が広がるってものでしょ?」
ね?と年上のくせに小首を傾げる姿が様になっているのが不気味だった。
これも彼の武器のひとつなんだろう。
「評価されるわけですねぇ?感情が先行する椎那先輩をうまーくサポートするラグ先輩。お聞きする以上にご活躍してきたんじゃないですかぁ?」
「さぁ?僕はただ、椎南を悪い状況から遠ざけたいだけだから」
椎南、と声を出すと同時にその瞳が僅かに細められた仕草でシーザはまたひとつ確信する。
この二人、ガチでできている。
彼等の「比翼連理」なんて呼称、見た目かなにかでつけられてたと思っていたが、どうやら実状をしっかり現しているらしい。
恋愛感情についての考察はまだ不得意なところだが、彼等を見ていれば少しばかり解消できそうだ。
「ほらね?僕と君はピッタリだ」
にこりと笑む師匠に、シーザも同じように彼特有のだるい笑顔を返す。
なるほど、その通りだ。
椎南とレヴァルにせよ、自分とラグディスにせよ。
よくできたように性質が似ている。
だからこそ自分とレヴァルはこの二人の下に配属された。
「特殊ってやつですかぁ」
「要は上の扱いやすさだよ。僕らや君達は、利用価値はあるけど、使いづらい。だったらひとまとめにしとくが楽ってね」
「あちゃぁ〜こりゃレヴァルの将来茨の道だぁ」
「正規ルートとしてはね。ただ、道はひとつじゃないものだよ」
「でもレヴァルそれしか知りませんからぁ」
「けど、君は違うだろ」
「そうですねぇ」
へらりと笑ってなにも読めない瞳を見やる。
利用すべきだ。
この状況も、彼の乗り気も、周囲からの隔絶も。
これは今までにない、自分にとって最良な学びの機会。これまでの全てが塵にも等しい大きく、魅力ある機会。
「では、明日もあることだし、そろそろ僕らも休もうか」
「了解でぇす、お師匠様〜」
寝具に身を横たわらせ、シーザは小さく笑った。
それは、レヴァルを見いだしたときと同じように心地のよい興奮。
どこまでも純粋な期待。
これでまた、退屈がより遠ざかる。
喜びのあまり、シーザはもぞもぞと動いた先で眠るレヴァルの脇腹を勢いよく突いた。
ゴフッと息が吐き出されたが、やはりレヴァルは目を覚まさなかった。
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