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変わったお前とあたしと君と




『俺のギャップについてこれたら、友達でも何でもなってやるよ』



数日前にスタジオでそう言われた。
あの日から余裕綽々で無駄に整ったあの顔が、憎たらしくてたまらない。





「・・・・・・・・・」

「・・・あの・・・アニーミ、さん?」

じぃっと顔を見つめること数秒。目の前のそいつはビクビクしながらこちらの名前を呼んだ。
それでも姿勢を変えずに(半ば睨むように)見続ければ、そいつは困ったように眉を八の字に下げた顔で、こちらを伺うように尋ねてくる。


「その・・・僕の顔に、何かついてる・・・?」

「・・・いや・・・別に」

「あ、そう・・・ですか・・・」


尻窄みになる声。
それを聞いてると自分自身の行動が急に馬鹿馬鹿しくなったので顔を離した。
そうすればクラスメイトの少年―ルカが安堵の息を漏らす音が耳に届く。

・・・そんなに嫌だったのか。
心の中で呟いた。







ルカ・ミルダを一言で形容するなら、ヘタレだ。
もしくは優等生。

頭が良いけど、いつも周りの様子を伺って、おどおどしてて、話しかけようならば挙動不審になる。
しかもたまに話してることが暴走する。変な奴。

容姿は中の上。
ただ羨ましいほど肌が白い。そして女と見違えるほどに線が細い。そこに銀髪なのがプラスされてなんかもう儚い印象さえある。中性的な容姿と言えるんだろう。

ただ、残念なことに奴はいつも黒斑の眼鏡をかけている。
だから周りからの注目は薄い、とイリアは思う。



一度だけ、その素顔を見た。

あれがきっかけで、自分はルカ・ミルダを気にしだした。







「お疲れさん」

目の前に差し出されたジュース缶と、そいつの顔を交互に見る。


「・・・ありがと。気が利くわね」
「200円」
「じゃあ、いらない」
「嘘だよ。うちのマネジの奢り」


つん、と親指で示した先には見慣れた顔の男性。
「うちのマネジ」と言われたその男性が笑顔を向けてくれたので、お礼を込めて頭を下げた。
そして勢いよく缶ジュースを引ったくる。


「可愛くねぇ受け取り方」
「あら残念ね。あたしはいつもこんな調子よ」


べっと舌を出してやると思いっきり溜め息を吐かれた。
その反応にムッとするも何も言わずにジュースをいただく。


小さな休憩室。
撮影が終わったらいつもここで雑談を交わすのが恒例となって早一週間。
つまり、あたしとコイツ―アスラとペアでの仕事が始まってもう一週間になる。


初めて一緒に撮ったのはもう二ヶ月前。
それがどうも読者受けが良かったらしい。同じペアでまた撮ることになって、それがしかも何枚も撮るからとこの一週間。

まぁ幸運なことに、このアスラという少年は自分は同じタイプの人間・・・つまりいつでも素をさらけ出してるということで気が合った。
おかげで気を使わなくていいから大分楽。

だけど、ある一言がここ数日ずっと頭の中でぐるぐるしている。



『俺のギャップについてこれたら、友達でも何でもなってやるよ』



「そろそろ意味教えてくれない?」

素直に尋ねれば苦笑と肩を竦める動作を返された。

「てかギャップとか意味が分からないんだけど。あんたにギャップ?そんな奴には全然見えない気がするけど?」

「そりゃあ俺は俺でしかないからな。俺の性格は今イリアと一緒にいる俺のものだから」


はぁ?と言ったところでアスラは意味深な笑みを見せるだけで、あたしは益々混乱する。

別に友達になりたくて疑問を解きたいのではなくて、こうやって提示されたものが頭に引っ掛かってるのがめちゃくちゃ気持ち悪い。
だから今日も普段以上に頭を酷使して考えてみるけど、答えは一向に見つからない。


「じゃあギャップも何もないじゃない」

「それはイリアがまだ本当の意味で俺に注意を払えてないからだな。知ってるか?俺とお前、今日何回も顔合わせてるぜ?」

「え?それって外で?」

「そう、外で。やっぱお前が俺のギャップについてくるには、まだまだかな」

「ムカつく」
「ま、せいぜい頑張ってくれ」


ひらりと手を振る姿が様になっていて、余計ムカついた。





「ところであんたさ、兄弟っている?」
「うん?」

何で?と首を傾げるその顔が、重なる、姿。


「別に、やっぱいい」


何だそれと、アスラが呆れた表情をする。

首の動きに合わせて銀の髪が揺れる。鋭そうに見えて、案外大きな瞳。



一度だけ、その顔によく似た顔を見たことがある。
普段は眼鏡で分からないけど、一度だけ見たその顔。






ルカの素顔は、今目の前にいるアスラによく似ていた。



++++++
続きます。

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