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勇者と魔王2





「・・・まさか約束を忘れた上に流行りの土いじりを楽しんでたんじゃないでしょうねぇ?」
「・・・・・・・・・」


智咲がもう一度大きく息を吸い、思い切り拳を握りしめる。

「歯ぁ食い縛りなさいっ!!」
「ごめんなさいっ!暴力反対っ!痛いの嫌いっ!」

そうして恒例の追いかけっこが始まる。
唸る拳。すれすれで回避する体。繰り出される蹴り。飛び上がって避ける足。

ドタバタな喧嘩を九羅は壁に寄りかかって眺める。「今日も今日とて絶好調」。そう心の中で呟いた。


と、遠くからぱたぱたと小さな、それでいて必死な足音が微かに響いてきて、九羅は喧嘩見物を止める。
そして、一番聞き慣れた足音の主の方へ振り返った。



「はぁ・・・はぁ・・・ちーちゃ・・・いた・・・」
「また追いてかれたのか?美愛(みちか)」
「ちが、うの・・・途中で・・・はぁ・・・はぐれて・・・あ、そうだ。お帰りなさい、お兄ちゃん」
「・・・ただいま」


美愛。
彼女は九羅と血を別けた双子の妹。二卵性であるため容姿は双子と言うほど似ていない。それでも髪と瞳の色は全く同じもので、他人に兄妹だと納得させる接点はある。

ただ一言、二言のやり取りにほんわりと妹が笑えば、今までピクリとも動かなかった九羅の顔が穏やかなものになる。そして、妹の頭を兄は三度ほど撫でる。

こうして穢れた少年はまた安息の場所へ帰ってきた。
親友と、友人と、妹のいる日常。



「はわっ!ちーちゃん・・・!なっ・・・何してるの!?」
「あれぇ?みっちー今来たの?遅いよ〜?遅いからあたしもうゆずに二、三発いれちゃったよ?」
「痛い・・・怖い・・・暴力反対・・・反対!」
「・・・諦めろ柚斗。お前が悪い」
「そーだそーだぁ!約束破りの常習犯!」
「だからって人を殴って制裁するようなやり方におれは異を唱える!!」
「そ、そうだよちーちゃん。叩くのは駄目だよ・・・」
「みっちーはゆずに甘い!甘過ぎ!甘やかしすぎ!」
「そ・・・んなこと」
「おいコラちーちゃん!美愛を苛めるなよ、弱い者いじめはカッコ悪いぞ!」
「あんたが言うな!しかも苛めてないわよ!あとゆずからその名前で呼ばれるの鳥肌立つわ!」
「確かに。気持ち悪いな」
「九羅のバカー!こういう時は男同士味方してくれよ!」
「・・・いや、これはお前が悪い」
「さっすがヒサは分かってるぅ!」
「ぐあーっ!親友にまで見捨てられるとか!洒落にならん!」
「ゆ、柚斗さん大丈夫ですか?あの、私で良かったらお力になりますよ・・・?」
「美愛天使!ありがとう!君はいつも美しい!」
「・・・!?はわ・・・」
「・・・柚斗。ちょっと面を貸せ」
「あら?お兄ちゃん怒ったかも?」


ギャーギャーワーワー、年相応に騒ぐ四人の少年少女。

一人は異才の滅ぼし屋で。
一人は痛みを恐れる臆病者で。
一人は気丈で危うい頑張り屋で。
一人は影に徹する帰りを待つ者で。

幼馴染みだった。
柚斗と、九羅。最初に出会って。
智咲は柚斗に連れられて、美愛は九羅に付いていって、四人は出会って。
性格も、趣味も、まるで違うのに一緒にいて、学園と呼ばれる、この閉鎖空間でも一緒。


「そうだ!皆でトマト食おーぜ!取れ立て予定トマト!」
「そんなこと言ってたな・・・俺は別に良いぞ」
「まぁたゆずの土いじり成果?ほんっとう約束忘れる程好きなら土と結婚しろっての」
「言い過ぎだよちーちゃん・・・。あの、喜んでいただきます」

「決〜まり!じゃあ行こうぜ!」
「あんまり騒いで見つかるなよ?担当に怒鳴られるぞ?」
「大丈夫だって!」


裏庭に向けて歩き出す。
隊列は、決まりなんてないその場その場のものなのに、自然と決まった形になる。
柚斗と九羅が並んで、智咲がその間ら辺でつっこんで、美愛が全員が見えるよう少し後ろを行く。


いつも通り。
だから疑問を抱かなかった。
どうして柚斗と九羅が常に並ぶ形になるか、誰もなにも思わなかった。




昔々、魔王を倒した勇者がおりました。
しかし勇者には魔王から受けた呪いがありました。
しかしその呪いを、神話の話の詳細を知る者などなく。
現在、魔王の手下の悪魔が暴れまわる現代。

蘇った筈の魔王の姿を見たものは、今だこの世にいない。




(離さないと、憎たらしいと魂が囁く。
僕はただ、恐ろしくてその身を震わせた)




++++++
ちょっと前に思い付いたネタでした。
結構設定気に入ってるのでまた書きたいなとか思ったり。

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