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君が足りないんです



「・・・唯」

のんびりとソファーの上で、昔ヒナがくれた本を読んでいたら、何だか元気のない狗縲がぽすんと隣に座り込んだ。
そのまま肩に頭を乗せてきて珍しく脱力。


「・・・どうした狗縲?」


呼び掛けてみても少し身動ぎするだけで答えがない。
とりあえず本を置いて彼女の顔を覗き込んでみる。が、目を逸らされてしまった。
しかしこちらが興味を示しているのが分かると、細い指が自分のものに絡められる。
そして、より体を密着させてきた。トクトクと響いてくる小さな鼓動と、自分以外の体温を直に感じて顔が熱くなる。


「狗縲・・・?」
「・・・・・・んだ」
「うぇ?何だって?」


もう一度呼び掛ければ、聞こえたくぐもった声に耳を傾ける。小さくて恥ずかしそうな声が耳に響いた。


「・・・いんだ・・・・・・唯が、足りないんだ」


「・・・オレが、足り?」

「その・・・最近、忙しかった、から・・・」

もじもじしながら体を擦り寄せてくる狗縲の顔を再度覗き込むと、赤らんで僅かに潤んだ瞳と視線がぶつかる。

確かにここ最近、昼休みの定例はともかく、唯は親方ご指名の残業が重なって、狗縲と話をする時間が少なかった。
つまり、唯が足りないというのは・・・。

「・・・狗縲」
「・・・・・・ん?」
「可愛い・・・」

ぴくんっと彼女の体が跳ねた。やっと分かってきたことだが、狗縲は言われ慣れていない言葉とかに弱い。
・・・と言っても、自分だって慣れないことには対応が出来なくなったりと、似たような弱点を持ち合わせていたりするのだが。とにかく、こういう反応が新鮮で、見ると体の中心が熱を帯びて、狗縲にいっぱいいっぱい触れたくなる。

調子に乗って自分から彼女に体を寄せると、彼女は素早く逃げて、唯の膝の上に背を向けて座った。
急に温かさが消えたのが寂しくて背を向けた狗縲に手を伸ばし、そのままぎゅうと抱き寄せる。
目の前に来た狗縲の首元に顔を埋めると、仄かな甘い香りと「はぅ・・・」という可愛いため息が至近距離で響いた。

それから暫くそうしていると、狗縲がもぞもぞと体を反転させてきて、今度は真正面に彼女と向き合う。
そしてどちらともなく、寝る前の時のように額を合わせた。
互いの呼吸が間近に聞こえる距離。やけに熱を孕んだ吐息に我慢できず相手の唇を啄む。

触れるだけだったり、軽く合わせてみたり、たまに熱く湿ったものがつつき合ったり、何度も何度もキスをする。

頭が少しぼぅとしてくる頃に互いに離れて、狗縲は静かに膝から降りると、当初の位置に戻った。
肩と肩を合わせて、手のひらをゆっくりと重ねて目を閉じる。

そうして足りないものを補うように、二人は暫く身を寄せ合わせていた。



“君が足りない――じゃあ補わせて?”

愛しくて寂しい気持ちを優しい温もりで満たして下さい。





++++++
新婚レベルの唯狗ちゃん。
これはプラトニックですか?
とか言いつつ友達に読ませたら「毛穴から砂糖出せる」と新しい表現いただきました。
正直恥ずかしいです。

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