思出話
「にいさま!」
大きな声でそう言った子供が、勢いよくもう一人の子供に抱きつく。
もう一人はそれを、慣れた様子で受け止めた。
そして、自分と体格の違わない、抱きついてきた子供の髪を撫でる。
「どうしたファル?なにかいいことがあったのか?」
口を開いた「にいさま」と呼ばれた子供は、その外見に似合わない口調で「ファル」と呼ぶ子供に話しかける。
すると、「ファル」の方は待ってましたと言わんばかりに瞳を輝かせ始めた。
「そうだよ!アルにいさま!
アッチ!アッチにすごいものがあったの!」
そう行って「ファル」はグイグイと「アル」の腕を引く。
「そんなに、いそがしいものなのか?」
「ううん。でもはやくアルにいさまにみせたいの!」
よほど見せたいのだろう、「アル」の服が伸びそうなほど力一杯引いて、「ファル」は彼を自分が見つけた物の方へ連れていく。
子供には大きな茂みをかき分けて。二人は庭園の隅のほうまで歩いた。
そして、隅の隅で「ファル」が膝を折り、庭師が手入れしてるであろう花の間に手を突っ込む。
「・・・ファル。あとでしかられるぞ?」
「ここのね・・・ん〜・・・・・・あっ!あったよホラ!みてみてにいさま!」
ガサッと勢いよく葉を退けて、「ファル」が指差す。
「アル」はそこを静かに覗き込み、息を呑んだ。
「わぁ・・・」
「ねぇ!すごいでしょう!」
興奮する「ファル」と、食い入るように見つめる「アル」は暫くソコを見つめ続ける。
そして、どちらともなく顔を見合わせると、二人とも困ったような顔になった。
「レストにいさまには、おしえた?」
「ううん、まだアルにいさまだけ。
・・・どうしよう?」
「これはきっと・・・だれかにおしえたら、とられるかも・・・」
「レストにいさま、とっちゃうかも・・・?」
「・・・どうする?」
「・・・おしえない?」
「・・・ひみつにするか?」
「・・・ボクとアルにいさまのひみつ?」
「そう、オレとファルだけのひみつ」
「ひみつ・・・!」
目を輝かせながら、「ファル」が唇に人差し指を当てる。
合図のように、「アル」も唇に人差し指を当てた。
「ぜったいにナイショな」
「うん!ふたりだけのひみつ!」
そう頷き合って、そしてひみつのソレを再び隠す。
「ひみつはナイショ」
「ナイショのひみつ」
楽しそうに呟きながら、二人は手を繋いで庭園を後にする。
子供には大きな茂みをかき分けて。庭の中心部に来ると、二人の大好きな後ろ姿がそこにあった。
「「かあさま!」」
無邪気な声をあげて、二人は大好きな母親に抱き着く。
母親は陽射しに煌めく蒼い髪を揺らし、愛しい兄弟を抱き締めた。
「どうしたの、アレス、ファリス。とても嬉しそうね」
「ええ、すごくうれしいです!」
「それは何故?」
「ふたりのナイショです!」
「あら・・・」
嬉しそうに「ナイショ」と言う息子達のあどけなさに母親はくすりと笑う。
そして優しく二人の頭を撫でた。
「そう、二人の内緒なの。
だったら私には話せませんね」
「そう!ひみつなの!」
「うん!ひみつなの!」
キャッキャッとはしゃぐ兄弟の姿に、母親は子供達を愛しげに見つめ、微笑んだ。
「二人だけの、あれが初めての秘密でした。母上」
小高い丘。
風だけが頻繁に通うその寂しい場所で、アレスは一つの墓標を見つめる。
『第二妃ノ墓』とだけ彫られた寂しい墓標。
名前すら刻むことを許されなかった、異なる島国出身の女性の墓。
その墓石の元に、アレスはそっと花を供える。
置いたそばから、風がその花弁を撫でていった。
「本当はいつか、母上にだけ教えようと考えていたのですよ」
大好きな人との、秘密の共有。
唯、無垢な幼子であった頃の単純な考え。
されど、その秘密をとうとう教えることもなく、母は亡くなった。
一つの『予言』の始まりとして。
「誰もが愚かであると罵るでしょう。私も、巡り会える可能性が皆無に等しいことは十二分に理解しています」
亡骸の眠るその場所で、アレスは己の胸の内を淡々と語る。
静かに目を閉じて、朧気な記憶の映像を頭に描く。
そう、たとえ姿を覚えていなくとも。
「それでも私は、会えると信じます。・・・血の繋がった・・・“弟”ですから」
寂しげに笑い、アレスは母親の墓地から離れる。
母によく似た“弟”の、幼い笑い声が頭に響いて消えた。
++++++
いきなり頭に降臨したアレス君過去話。
前々から兄弟が仲良しこよししてるのは、書きたかったんだけど・・・一応三才くらいでこんなに喋るかなぁ・・・?
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