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僕の夢



「綾廻・・・?何してるの?」

せっせと何やら熱心に作業をする少年に炯が背後から尋ねる。
彼はちらりと炯を横目で見たがすぐ作業を再開してしまった。

あまりの熱心さに炯は首をかしげる。綾廻はよい言い方ではないがほとんどの事柄に興味を示さない。

二人の様子に違和感を感じたのだろう惺慈も無言で炯の隣に並び、綾廻の背中を黙って見つめていた。


「・・・・・・・・・できた」

小さな声と共に綾廻が体を起こす。
そして今まで視線を落としていたものを背後の二人見せるようにぱらりと持ち上げた。


「これは・・・絵?かしら綾廻?」
「うん」

確かな肯定を受け二人はじっと少年が描きあげた絵を鑑賞する。

中央に人が描かれた、あまり見映えのよくない絵だ。

人物は片目だけ閉じていてその下には涙のような雫。
両肩のバランスは全くとれていなくていかにも綾廻は絵が上手くないのだと物語っている。


「何て言うか・・・随分独創的な絵だな・・・」

惺慈が考え込むようなポーズで呟く。
綾廻は独創的の意味がわからなかったのか首をかしげたが炯は彼の言葉に同意するように頷いた。

「そうね・・・。この子・・・泣いてるの・・・かしら?周りにあるのも雫?」
「こっちのこれは・・・鎌か?なんだか物騒だな・・・」
「右のコレが鎌なら左のは何かしら?・・・農具の刃?」
「・・・にしては丸くないか?
なぁ綾廻?これは何を描いたんだ?」


二人で一通り議論してから描かれた物を聞く。
綾廻は一瞬目を瞬かせたが、すぐに言葉の意味を理解して絵に視線を落とした。
そして中央の人物を指差す。


「これはね・・・僕の夢の絵」

「「夢??」」


「うん」と頷く綾廻。


「僕ね・・・ちっちゃい頃からこんな夢をいつも見るの。
ここの子がいつも出てくる夢。それと・・・これはいつも夢の中に出てくる物」


そうしてトントンと鎌のようなものと農具の刃のようなものを指差す。
どうやら印象に強く残っている形を描いただけの物のようで名前は知らないようだ。


「ふぅーん・・・いつも見る夢かぁ・・・綾廻はロマンチストね」
「ろま・・・?」
「そういう言葉でまとめるな、よく見て考えろよ。やっぱりちょっと物騒じゃないか。こんな鎌みたいなのをいつも夢に見るなんて」
「形が似てるだけで別にそうとは限らないじゃない」


そのまま二人で謎の物体についての討論が始り、一人取り残された綾廻はもう一度絵に視線を落として軽く手のひらでそれを撫でる。

その後の呟きは本人以外の耳に届くことはなかった。





「・・・どうしていつもいつも泣いてるんだろう・・・?
ねぇ・・・君は、誰?」


疑問と真剣さを含んだ瞳で絵を凝視する綾廻。
撫でた指先の下で閉じられた片目は何故かとても寂しさを孕んでいた。


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