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逆転
「おっ!おーいロキー!」
バンエルティア号の廊下。
スパーダは、探し回っていた少年に向かって、声をかける。
しかし、普段ならこんな風に、呼び掛けたりはしない。いつもなら、あちらからよってくるからだ。
それが今日は、名前を読んだ筈なのに一向によってこない。
そもそも、彼を探すことすら初体験だ。
いつもはフィスかカノンノ、もしくはアスベルやソフィや自分・・・最近ではフレンとも居るようだが、常に面倒見の良い誰か(自分は除く)にくっついているのに。
とりあえず、振り返る気配のないロキに近づき、肩をむんずと掴む。
「おいロキ!」
「・・・・・・?」
極めつけに、耳元で名前を呼んでやれば、ロキは体をビクリと震わせて、振り返った。
・・・が、何か違う。
こちらの存在に驚き、目を見開いている表情、ロキが纏っている雰囲気そのものが、いつもと違う。
「ロキ・・・?」
顔を覗き込めば黄土色の丸い瞳が僅かに細められていた。
あまり動きが達者でない唇が動く。
「・・・どうした?スパーダ」
スパーダは喋ることも忘れ、思い切り目を見開き硬直した。
「・・・ロキ・・・だよな?」
「・・・ああ・・・それがどうしたんだアスベル?」
「・・・!?」
愕然とするアスベルの様子を見て、スパーダははぁと溜め息を吐く。
ソフィは首を傾げるばかりだった。
廊下からホールに、引っ張って連れてこられたロキは、いつも以上に話しかけてくる仲間達に、自分を見て、目を見開く周囲の反応に戸惑っているよう・・・に、見える。
なんと言うか・・・今のロキはいつも以上に表情が読めなかった。
スパーダ、それにアスベルやソフィ、三人とも彼との付き合いはそれなりに長い。
ロキが喜んでいれば、微かな頬の緩みで分かるし、他の表情も同様に、小さな変化さえ見れば、大方分かるようになっていた。
けれど今のロキに、それは当てはまらない。
引き結ばれた口。
キリっとした鋭い瞳。
そして・・・、
「なぁロキ」
「・・・なんだ?」
「今日の調子はどうだ」
「・・・?特に支障はないが?」
・・・別人のように男らしい口調。
「本当に何が起こっちまったんだ・・・」
「表情と口調で、人はこんなに変わるんだな・・・」
「こんな時にフィスの奴は依頼行ってやがるし・・・他のディセンダー共は遊びに来てねぇし・・・どうしろってんだ・・・」
「・・・二人ともさっきから何を言ってるんだ?・・・依頼に行くんじゃないのか?」
「「・・・・・・」」
「ねぇ、アスベル」
ツンツンと今まで黙っていたソフィがアスベルの服の裾を引く。
「ん?どうしたソフィ?」
「あのね・・・今のロキって、何だか戦闘中のロキみたい・・・」
彼女の言葉に、二人がハッとしてロキを見る。
「「そういえば・・・!」」
ロキはエミルと同じく、戦闘になると性格が変わる二重人格者だ。
とはいえ、性格の変化はロキの場合、本当に戦闘時だけに限られる。
日常を過ごす中で、戦闘時の勇ましく、よく叫ぶ彼が表に出てきたことはない。
だが、今ここにいるロキはまさしく戦闘時のものだ。
「つまり・・・エミルのように何かの弾みで性格が変わっているのか?」
「・・・・・・」
「・・・???
おい・・・どうして皆こっちを見てくるんだ?」
「とりあえずは・・・今日の依頼どうするよ?」
スパーダの言葉に、アスベルがチラとロキを見た。
数秒、考え込んでから口を開く。
「ロキ、もう一度確認だ。本当に何の支障もないんだな?」
「・・・そう、言ってる筈なんだが・・・?」
「よし!なら大丈夫だろう。いつも通り依頼に行こう」
「・・・?だからそう言っている・・・」
理解できていないロキは、首を傾げたままだったが、彼の疑問を全てスルーし、彼等はいつものように依頼を受け、外に出た。
依頼は何のアクシデントもなく終了した。
些細ではあるが、起きたことといえば、足を滑らせ転けそうになったスパーダを、ロキが助けたり。無口なソフィとロキが、声を出して会話をしていたくらいだ。
「充分大事だ」
「まぁまぁ、ロキに助けられたからってそう怒るなよ」
「悔しくなんてねぇし!!」
「・・・スパーダはどうしたんだ?」
「わかんない・・・でも・・・怒ってる、のかな?」
「・・・何を怒ってるんだ?」
「・・・わかんない」
「ほら、大声を出すから二人が不思議そうに見てるぞ?」
「好きにしやがれ・・・」
「そこまで拗ねるほどの出来事ではないだろう」
「うっせぇ!あの虚しさは体験したやつにしかわかんねぇんだよコノヤロー!」
「・・・自棄だな」
「・・・大丈夫かスパーダ?」
「・・・大丈夫かな?」
ソフィとロキが様子を見守るなか、スパーダの悲痛な叫びだけが辺りに響いた。
++++++
ロキの戦闘中の性格が、表に出ていたら・・・と思って、書き始めたらこうなった。
多分、続きます。
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