JKに振り回されても鬼灯は冷徹 | ナノ


  やきもちスパイガール


おどろおどろしい地獄の風景は変わらずともぐっすり寝た次の日というものはなんとなく気分がいいものだ。

「ふ、ふぁ〜あ。よく寝たぁ…」

まいも背伸びをして閻魔殿のほうへ歩みを進める。
どうやらもう獄卒たちは忙しく仕事をしている真っ最中でとても『遊ぼうよ』と言い出せる空気ではない。
いじけたように口を尖らせるもすぐに鬼灯の存在を思い出し彼の部屋を訪ねる。
しかし、お目当ての鬼神はおらず、部屋はもぬけの殻だった。

「あ、まいちゃん。鬼灯さまですか?」
「あ、うん。アイツ今日どこ行ったの?」
「鬼灯さまなら今日は金魚草の審査委員会で業務にはこられないんじゃないかな?あの方も多忙ですからね。お祭りも近いし、今日は戻ってこられないと思うよ。」
「アイツそんなこともやってんの。」
「急ぎの用事なら場所教えようか?お邪魔にならないようにね」

通りすがりの獄卒から鬼灯の居場所を聞き出すと足早に歩き出す。

(あんのヤロー。まいにはそんな事一言も言ってくれてない!しかもお祭り!?超楽しそうじゃん。ずるい!)

鼻息荒く教えてもらった場所にたどり着くと鬼灯の姿を探す。
幸い、彼は身長も高めなので見つけるのはそれほど大変ではなかった。
涼しい顔の鬼神のもとへ駆け寄るも、すぐにまいの足は止まってしまった。

(あの人誰だろう)

遠目で見たときには気づかなかったが鬼灯のそばにだれか居る。
細身でクリクリの大きな目が可愛らしい女性は今までまいが地獄で見てきた鬼の中でダントツに可愛い。
どうやら鬼灯は彼女と話しているらしく依然顔の変わらない彼とは対照的に彼女は眉間にシワを寄せてみたり時折笑ってみたり、なんだかとても楽しそうに見える。

「〜ではそのようにしますね。」
「はい、よろしくお願いします。」
「では鬼灯さま、また後ほど」

彼女が離れたのを見計らって鬼灯に近づく。

「まいさん。いらしてたんですか。」
「まいに黙ってこんな面白そうなことして!誘ってよっ!!」
「まだ準備中ですからそんなに面白くありませんよ。」
「む〜。そういえばさっき話してた人誰?すっごい可愛いね」

着流しの裾を引っ張りながら怒るまいに受け答えしながらも鬼灯の目は先ほどの彼女と話していたときの書類から離れない。

「マキさんですか?まぁ、確かに万人受けする顔ですしね。」
「ふーん、」
「アイドルですから可愛らしいのは当然でしょうしね。」
「アイドル!?なんでアイドルがここにいるの?」
「それは…かの「鬼灯さまー!よろしいですかー!」

鬼灯の言葉は奥にいたスタッフらしき人にさえぎられ鬼灯もそのまま奥へ消えていってしまった。
それだけならまだしも、鬼灯が消えていった奥にチラリとさきほどのマキの姿があったのをまいは見逃さなかった。

(それはの続きはなんなのよ。気になるじゃん!)

なぜか胸がざわつく。確かに細い腕に大きな目、おまけにアイドルと来れば世の男は彼女に首っ丈だろう。鬼灯もそうなんだろうか。
後をつけたい気持ちも山々だが制服姿はなにかと目立つ。
あたりを見回すとお約束のように誰かの脱いだ金魚草のイベントのスタッフTシャツがある。
すばやく制服を脱ぎスタッフTシャツに袖を通しまいは鬼灯を追って奥へ足を進めた。

奥は舞台のバックヤードにつながっておりスタッフとマキ、そして鬼灯はなにやら打ち合わせをしている。
途切れ途切れに鬼灯の低い声やマキの笑い声が聞こえるが何を喋っているのかまでは聞こえなかった。
そのうちスタッフは別の場所へ移動しマキと鬼灯はまだ2人で話している。

(なに喋ってるか聞こえない。もっと大きな声でハキハキ喋ってよー)

材木を運ぶように見せかけて2人の横を通ると

「私なんか、とてもとても…」
「いえ、マキさんでないとダメなんです。どうかお願いします。」
「鬼灯さま…」

この会話を聞いた瞬間にまいの手足は血の気が引いてすっかり冷たくなってしまった。鬼灯は自分にはきっとこんな言葉言ってはくれない。

(告白じゃん。今の完全に告白じゃん…)

そりゃああんな可愛いアイドルがいたら彼だって男だし好きにもなるだろう。
完全なる敗北だ。
あぁ、目が潤んで前がぼやける。わざわざ忍び込んで重たい材木を運んで心身ともに満身創痍だ。足にもすっかり力が入らない。グラリとよろけた瞬間に急に荷物が軽くなる

「まい。大丈夫ですか?」

軽々と荷物を片手で持ち上げた鬼灯がまいを見下ろす。

「まったくこんなところにまでやってきて、そのTシャツはどこで手に入れたんです?」
「まいだって気づいてたの?」
「うちのスタッフにはこんな下品で挙動不審な人いませんから。」
「う、うるさいなぁ!」

ふやぁと涙がこぼれそうになるが手でぐしぐしと拭えば

「こんなとこにいないで早くマキさん所に帰ったら!?」

鬼灯の持っている荷物を奪おうとするもヒョイとかわされ

「マキさんはイベントの出演を承諾していただいたのでもうお帰りになられましたよ。」
「は?イベント?」
「えぇ、今度のイベントに是非。アイドルのピーチ・マキがくるとなるとお客さんも増えますからね。」
「告白じゃなかったんだ。なーんだ、せっかく雑誌に特ダネで持って行ってやろうと思ったのに!」

安堵感で口角が自然と上がってしまう。
鬼灯には見られまいとくるっと背を向けて足取り軽く歩き出し、こんな時にも憎まれ口しか叩けないなぁとしみじみ思う。
しかし、背後から鬼灯の腕が伸びてまいの首に回されたと思えばそのままギュッと引き寄せられる。耳元には鬼灯の顔があることが気配で分かる

「ぐぇ」
「相変わらず減らず口しか叩きませんねあなたは。」
「…離してよ、見られるし恥ずかしい!」
「ヤキモチ妬いてたんですか?」

まさに図星といったところでまいの顔はポッと赤みが差す

「んなわけないでしょー!うぬぼれんなっ」
「え?どうしたんですか?顔が赤いですよ」

わかっていてわざと聞いてくる鬼灯と背中の彼の温度も心地よく、肘で後ろに一撃加えるのはもう少しあとでいいかなぁなんて考えるのだった。

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