JKに振り回されても鬼灯は冷徹 | ナノ


  嘘が下手


「家に帰りたい。」

唐突に口を開いたまいに鬼灯は「また始まった」と言いたげにため息をついた。

「あなたは亡者なんですから死人はあの世、生者は現世と決まってるんです。未練が残る気持ちも分かりますが、出来ないことを言わないでください。」
「違うってば!ちゃんと最後まで聞いてよ。別に生き返りたいなんて言って無いじゃん。そりゃあ生き返れるに越したことは無いけど…。生き返れないことぐらいまいも分かってますぅ〜。」
「ほんとにまいさんの口の悪さには脱帽するばかりです。張り倒してやりたい。じゃあなんなんですか?」
「荷物があるの。しばらくここにいなきゃいけないなら必要最低限のものが欲しいわけ。着替えとかさぁ、まいここにきてからずっと死んだときの制服のまんまだし。何にも私物無いしさぁ。」

たしかに、ただ漠然と「未練をはらす」といったもののすぐに終わるような問題ではないのは確かだったしその間必然的にまいは地獄にいてもらわなければならない。
身一つでここに来た彼女の言い分にも納得できる部分はある。

「わかりました。」
「ほんとっ!?いや〜正直ムリかなって思ってたんだぁ。」
「まぁあなたの言い分も分からなくは無いですからね。」

そういうと鬼灯は積みあがった書類の山に最後の一枚を載せて「ちょっと待っててください」と言い残して去っていった。
しばらくたつと一枚の書類をもって帰ってきた。

「私の現世視察の補佐という名目ですがなんとか申請通せましたよ。」
「ほんとっ!?」
「はい、ただ私にも時間がありませんので用事をすませたらすぐに帰りますからね。」
「はぁい」

数分後、着流しからTシャツというラフな格好にキャスケットをかぶった鬼灯が現れた。

「うわぁ、なんか着物以外の鬼灯ってはじめて見た。」
「あれだとなにかと今の世は浮きますのでこれは視察の際の服装です。」
「なんか新鮮。普通のお兄さんみたい。」
「…無駄口叩いてないでさっさと行きますよ。」
「あれ?鬼灯照れてんの?」
「うるさい」

振り下ろされた拳骨をヒョイとよけるとまいはニヤッと笑った。
生前の見慣れた姿が懐かしく、いつもより鬼灯をすこし近くに感じれたからだ。
「なーんか楽しいかも」まいは少し隣に詰めてピトッと鬼灯にくっつく。
鬼灯はというと横にくっついたまいを上から威圧的に見下ろしたあとまた前を向いて歩き始めた。

現世に着くとまいは見慣れた風景や音に心を弾ませた。
いつも歩いた道、友達と寄り道した店。全部全部懐かしい。
一つ一つ辿る様に家に向かう。

「つーいた!ここが我が家!」
「立派なお宅ですね。」
「そう?まいが生まれたときだから築17年じゃない?ちょい古だよ」

鍵を開けようとドアノブに手を伸ばすが手はドアノブをすり抜ける。
しばらく沈黙したあとまいは笑顔で振り返って

「そういえばまい幽霊だから触れないんだった!失敗失敗〜。この時間は家に誰もいないから鬼灯一緒にきてまいの荷物持ってよ。」

小奇麗に整頓された部屋から鬼灯はまいが指定したものを次々と彼女のものらしきキャリーバッグに詰め込んだ。
なかなか大きいサイズのキャリーバッグだか今にもはちきれそうだ。
家をでて地獄に帰る際にまいは小さな声で

「ごめんね。まい触れないんだった!鬼灯が一緒で助かったよ。久々の街とか家とか見れて凄く楽しかったよ。」
「楽しくないでしょう?」

前を歩いていたまいは鬼灯の一言で立ち止まる。

「楽しかったら泣く必要ないでしょう?なんで泣いてんですか」
「はぁ?泣いてねーよ。」
「うそつきですね」
「バカでしょ?さっきから泣いてないって言ってんじゃん!」
「じゃあ振り返って顔を見せて御覧なさい」

鬼灯は歩いて返事をしないまいの前に立つ。

「ほら、泣いてるじゃないですか。」
「うるっさい!!」
「生き返れないなんて分かってるって言ったじゃないですか」
「しょうがないじゃん!またあの道を歩いてあの店で買い食いしてずっとずっとあの家で暮らしたかったもん!そのキャリーバッグだってまだ一回も使ってなかったんだから。これから友達と旅行したりするから買ったのにっ!」

突然鬼灯はまいの顔をグイッと上にむけると自分の唇を彼女のソレと合わせる。
入ってくる舌が熱くてずっと上を向かされて苦しくてまいは必死に酸素を求める。
一度唇が離れてもまた何度も何度も重なった

「ちょ、ほ、鬼灯…ふあ。い、き…できない・・・!」

一心に鬼灯の胸板をドンドンと叩くとようやくその唇は離れた。
息の上がったまいを見ながら鬼灯は涼しい顔で口の端を拭う。

「はっはぁ、はぁ。酸欠で死ぬかと思った…!」
「もう死んでます。これ以上死にませんよ。そうです、貴方はもう死んでるんです。だからこれからは私と一緒に生きていればいいんです。思い出に浸るのは結構ですが、そんな思い出私が消してあげます。」

そういうとまいの頬に伝う涙を拭うとまた鬼灯は自分の唇を近づけた。

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