JKに振り回されても鬼灯は冷徹 | ナノ


  マキロンじゃ治せない


「おっじゃまっしまーす。」

白澤の店ほどではないが独特の植物の匂いにまいは顔をしかめる。
地獄から何も考えずに歩いたおかげで足の小指は靴擦れで血が滲んでいた。
傷も乾きかけてはいるものの足を引きずってはヒョコヒョコと情けなく歩く。

「なんか意外…鬼灯ってキッチリしてるお役人さんだからもっと部屋も綺麗なんだと思ってた。」
「物が多くて整理する暇がないんです。すいません、片付けも出来ていない部屋にお呼びして。」
「いや?いいよ別に。まいも部屋散らかしてよくママに怒られたなぁ」

本棚や机の上には書類やら資料やらが山積みになっており、彼の有能さと多忙さを表している。
珍しいものを見るようにキョロキョロとあたりを見回していると鬼灯は戸棚から包帯と薬箱を持ってきた。

「血も止まってるので多分大丈夫だと思いますけど雑菌が入るといけないので消毒だけしますね。そこの布団のところに座ってください。」

言われるままに座るとまいの足を掴んで血で汚れた部分を丁寧に落としている。
今までの態度からは想像もできないような優しい扱いに耳の辺りがくすぐったくなる。

「うっ…クククッ ちょっと!待ってよぉ アハッ くすぐったいんだけどっ!」
「大人しくしてなさい。鬼と違って人間なんて脆い生き物なんですから。ばい菌が入って化膿なんかしたらどうするんですか。」
「だって〜。ッ!いったぁーい」

さっきまでの顔と一変してまいの顔が痛みに歪む。
リラックスして力の抜けきっていた体は痛みに耐えようと悶える。
引っ込めようとする足をガッチリと掴んで鬼灯は靴擦れの部分に謎の液体を吹きかける。
すると「ッ!つぅ〜…」とまいの苦しそうな声が漏れる。

「痛い痛いっ!いっつぅ〜…何したの!?凄いしみるんだけど!」
「だからさっきから消毒するって言ってるでしょう」

鬼灯の手には青いキャップの今ではすこし懐かしい某消毒液が握られていた。
悶えるまいをよそにまた消毒液をブシュブシュと吹きかける。
痛みから逃れようと足をばたつかせるが鬼灯の腕はビクともしない。
まいの目尻にうっすらと涙が浮かぶ。

「かけ過ぎっかけ過ぎだから!」
「痛みに耐えていらっしゃるまいさんの顔。失礼は承知ですがすっごくそそります。」
「はぁ!?この変態!もういいから早く包帯巻いてよ!」
「チッ もったいない」

そういうと鬼灯は消毒液をぶっ掛けるのをやめて包帯を巻き始める。
最初と同じように壊れ物を扱うように優しく。
鬼灯の手が肌に触れるたび体が熱くなるのを感じる。

触れたい、触りたい。
その黒髪に、意外とガタイのいい体に…
こんなことを考えるなんて、自分は一体どうしたんだろう。

「はい、終わりましたよ。これに懲りてもう馬鹿みたいなことはやめてくださいね。」
「ん、ありがと。」
「まいさん…」

目の前が急に薄暗くなって顎をクイッと持ち上げられる。
カガチのような目はまっすぐにまいを見つめる。

「えっ?ほ、え、え?鬼灯?」
「せっかく人が手当てしてあげたのにそんなふて腐れたような顔をしないでください。我慢できなくなるじゃないですか。その強気な顔、私の手で壊してやりたくなります。」
「は、はぁ〜!?」

怪訝そうな顔をしたまいだが頭の中は大パニックだった。
(コイツ何を言ってるの?我慢って何なのよ。壊すって何!?怖い!それに何時まで触ってんのよ。触らないでよ。アンタが近づくと心臓が痛い。)
そんなまいをよそに鬼灯はまいの顎から手を離す。

「なーんて、冗談です。」
「うっそでしょ!?最悪!人のことなんだと思ってんのよ!」
「たまには生意気なまいさんに一泡吹かせてやろうと思いましたが、まさかこんなに動揺されるなんて。まだまだ子供で安心しました。子供は保護者の目の届くところで遊んでてくださいね。」
「・・・なによ。バカ」

『バカ』といった瞬間に鬼灯の拳骨が振り下ろされてゴンという鈍い音とギャッというまいの声が同時に聞こえた。
振り下ろされた拳骨はそのまままいの頭をクシャクシャ撫でる。

「では、私は仕事場に戻りますのでゆっくりしていただいて結構ですよ。」

そういって鬼灯は自室を出る。
まいは拳骨された頭を一撫でして心臓を押さえる。
鬼灯といると心臓が締め付けられるようで苦しくて痛い。
これは消毒液で治せるんだろうか。自分はどうしてしまったのか。

同じころ、鬼灯も廊下を歩きながら自分の胸元をさすって
「自分が抑えきれないなんて私もまだまだですね。」とつぶやいた。

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