JKに振り回されても鬼灯は冷徹 | ナノ


  靴擦れもそんなに悪いもんじゃない


まいは困っていた。
散歩のつもりで歩いていたらひどく乾いた地面のものものしい景色から、川は流れ鳥は歌い花が咲き乱れる景色に変わったことに気づいた。

「やだ、ここどこだろ…」

あたりを見回しても美しい景色だけ
どの方向から来たのかも見当がつかない。

「ちょっと、このままじゃ迷子なんですけど。」
「…あの、どうかしました?」

横から聞こえてきた声に驚いて振り向くと、
まぁ、なんといったらよいのか教科書に描かれるような古風の顔の男性がまいを見下ろしていた。

「あの、迷子になっちゃって…閻魔殿に帰りたいんですけど。」
「閻魔殿ですか?そんな遠くからよく歩いてこれましたね。」
「え〜そんな遠いの!?もう帰るのめんどくさいよ〜」

まいの嘆きに男はちょっと笑って

「地獄から天国まで歩こうなんてあなたもなかなか勇者ですね。
自己紹介が遅れてスイマセン。俺は桃太郎です。」
「桃太郎!?アハッ確かに太郎系の顔してるよね!まいです。よろしく。」
「太郎系の顔って…。まぁわざわざ遠いところからご苦労様です。
もしまいさんがよければこの先の俺の仕事先で休んでいかれませんか?」
「ほんと!?うわ〜助かるっありがとう!桃太郎君」

桃太郎からさしだされた手を勢いよく握って答えた。
確かに帰りたいのは山々だがどこかで休みたいのが本音だった。

桃太郎の仕事先は薬屋さんのような独特のにおいがした。
案内されるまま中に通され、お茶が出される。

「ごめんね〜ありがとう。」
「ゆっくりしていってよ。従業員はウサギだし、あの人は話にならないし、俺もしゃべる人が居なくて退屈してたんだ。」
「へぇ〜、あ!あとね絆創膏ってあるかな?さっきから足が痛いんだ〜。靴擦れかも」

生前のまま履いていたローファーと靴下を脱ぐと確かに足の小指が血で汚れていた。
先ほどまでは少し痛いぐらいの気持ちだったのにあらためて血を見るとなんだか痛さが増してジンジンしてきた。

「うわ、大変っいまなんか薬持ってくるよ」

そういって桃太郎は店の奥に消えた。
まいは自分の足の小指を眺め時折息を吹きかけたりして傷が乾くのを待った。
その時店の扉が開いて給食当番のような格好をした長身の男性が現れた。

「あれ?お客さん?」
「あ、いま桃太郎君奥行っちゃったんです。呼んできましょうか」

立ち上がろうとするとその人はまいの肩を押さえてまた椅子に座らせた。

「自分で行くからいいよ〜、怪我した可愛いお嬢さんに行かせるわけないでしょ。
それにしても君可愛いよね。僕のこと知ってる?どこから来たの?」
「まいです。閻魔殿から来たの。ちなみに貴方のことは知らないよ」
「あ、結構ハッキリ言うんだね。そういうのも可愛いから好きだよ。閻魔殿かぁ〜
僕の嫌いなやつがいるからあんまり行かないなぁ。あ、僕白澤ね」

そういうと愛想よく微笑んでまいの両手を握った。

「ゆっくりしていきなよ」
「そうはいきません」

聞き覚えのある声に振り向くと店先に鬼灯が立っていた。
彼らしくも無く浅く息を切らしているのが分かる。

「この子は亡者で管轄は閻魔殿です。担当は私ですので白豚さんの店に何時までも置いておくわけには行きません。」

そういうとまいの手を取って店を出る

「ちょっと、鬼灯ってば!まい靴擦れして痛いんだけど!引っ張らないでよ」

すると鬼灯はピタッととまって軽くため息をつくと

「はぁ〜急に消えたからどこへ行ったかと思えば…乗りなさい」
「なによ、しゃがんだりして、」
「頭の回転が悪いですね。特別におんぶしてあげるんです。早く乗ってください。仕事がまだ残ってるんですから」
「じゃあまいなんてほっといて仕事しとけばいいじゃん。いつもほっといてるんだし」
「私の目の届くところでウロウロしててればいいんです、早く乗ってくれませんか」

すこしふくれっつらをして鬼灯の背中に乗ると鬼灯は歩き出す。
広い背中が心地いい。

「まいさん軽いですね。ちゃんと食べてます?」
「うるさい、セクハラ。じゃあなんかおいしいもの食べさせてよ。」
「…食べ物より躾のほうが必要ですね。」
「ねぇ、足の手当てしてもらってないんだけど」
「私の部屋でしてあげますよ。勝手に居なくなったと思えば足に怪我して帰ってきて…」
「怪我したくてしたんじゃないもん。ねぇ心配した?」
「…しましたよ」

少し間をおいて答えた彼の言葉に満足して後ろから頭を撫でてやると「やめてください」とばかりに首を振る。
まいは少しだけこの鬼に対する気持ちが変わっていることに気づいた。


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